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2022.10.28

【事業に関する本質を問う】
暮らしでも学びでも仕事でも急速に進むデジタル化の現在

 

株式会社ビットメディア代表取締役/当財団シニアフェロー 高野雅晴氏

 

 

信頼資本財団事務局(以下、事務局):今年(2022年)に入って、一般の私たちでも「Web3」あるいは「Web3.0」という言葉を目にするようになりました。
Web3とは何か、既に多くの人が語っていることではありますが、高野さんの言葉で簡潔に語っていただくとしたらどのような説明になりますか。

 

高野雅晴氏(以下、高野氏):語る人の立場や姿勢に沿って解釈される言葉なので、自律分散型参加型社会の実現を目指しているとはいえ、IT/Cloudサービスを業としている企業の代表の発言として偏りがあるかもしれないことをまずはお断りします。そのうえで、Web3とは何かですが、イーサリアムCTOのギャビン・ウッド氏の取組みや、ベンチャーキャピタル大手アンドリーセン・ホロウィッツが提唱する概念などが源流といわれますが、それらのさらに深層にあるのは本来インターネットによって実現される世界観であり、インターネットの標準化団体、IETFが標榜している「We reject kings,presidents and voting. We believe in rough consensus and running code.( :私達は王様、大統領、投票を拒否します。大まかな合意と動作するコード(プログラム)を信じます)」への回帰、いわばインターネット・ルネッサンスの「言霊」ととらえています。巨大プラットフォームの弊害を契機に生まれた概念ではなく、巨大プラットフォームによって見えなくなってしまった本来の精神を取り戻すものといえるでしょう。

 

事務局:Web3の状況が整ってきたからこそ、 DAO(ダオ:Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)の社会に向かっていけるいう話も聞きます。
この「自律分散型」という言葉は、デジタル上の空間ではなくリアル社会において目指す形として我々は数年来、使ってきました。国の指揮指導の下に動く社会ではなく、国とも連携しながら、各地域、さらにはその地域の中のコミュニティが自律的に動くことで、人と人の関係性や衣食住といった暮らしの安心や安全が持続されていく社会を思い描きながら使ってきた言葉です。
現在もその目指す社会像は変わっていませんが、そのためのツールとして、デジタル上の自律分散も欠かせないと考えています。
これまでも高野さんとは共に「持続可能なコミュニティ経済の創造」に関する共同研究を行ってきましたが、我々が考えるような社会の在り方を目指そうと考える時、どのようなデジタルの活用の仕方が重要だと思われますか。
ご自身の活動もからめて教えてください。

 

高野氏:Web3を上記の「言霊」と解釈すると現状は「状況が整ってきた」というより、具体的な動きが出始めた段階だと思います。その一方、ブロックチェーン等のデジタル技術と切り離せば、「DAO的な集団」はリアル社会では昔から当たり前のように存在してきました。Web3文脈におけるDAOをリアル社会のDAOで表現するならばブロックチェーン基盤で実現される「結(ゆい)」と「講(こう)」の複合体として近似できます。ただし、ここで注意が必要なのは、現状のWeb3文脈のDAOでは投票権を前提としたガバナンスを想定しているものもあり、投票で白黒をつけるのではなく、顔の見える関係性の中でゆるやかな合意形成を進めるリアル社会のDAO領域に到達する前段階にあるのかもしれません。
デジタル技術の活用の仕方についてですが、時空間を超えたコミュニケーションを可能にする、活動の痕跡を再利用可能な形でアーカイブできるなどを当事者自らが実施・管理できるメリットは大きいことは間違いありません。活用の裾野が広がることによってリアル社会のDAO的な営みをより滑らかで包摂的なものにすることができ、さらには営みと営みをつなぎ、新たな活動を紡いでいける期待もあります。
こうした観点のもと、現実的に実施可能な範囲を見定めながら、暮らし/学び/仕事の境目をなくし、当事者によるDXを積み重ねるプロジェクト「DX Yourself(DXY、ディクシー)」などを進めています。具体的には5G技術を活用したプロジェクトとして東京都の二子玉川エリアでの地域コミュニティのデジタル化の取組み、学研都市としての新たな街づくりを目指す福岡県の糸島サイエンス・ヴィレッジでのプロジェクトなどを実施しています。さらに春や秋といった空調需要の少ない時期にメガソーラー等の再生可能エネルギーの余剰傾向が顕著になりつつあり、たとえば九州では全量買取制度に基づく数百万kW分の再エネ電源の電力系統へのつなぎこみが停止されている実態があります。その余剰電力を活用し、グリーンな電力のみでブロックチェーン基盤等を動かす地域データセンターのための技術開発なども進めています。

 

 

事務局:昨年あたりから、NFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)が日本でも注目されるようになり、FT(Fungibe Token:代替性トークン)と合わせれば、デジタル上に不動産的なものと動産が出現したことになりますが、どのような使い分けが良いのか、考えておられることがあれば教えてください。

 

高野氏:この領域については本来のポテンシャルと直近で注目される世俗的な背景を分けて考える必要があると思います。唯一無二のデジタル価値としてのNFTの購入、暗号資産としてのFTの購入の動機は、発行される目的に関係なく、「何を購入すれば自分の資産(お金)を増やせるか」のみに注目されがちです。本来であれば取得・購入という行為によって発行元のコミュニティとどのような関わりを醸成できるかが重要で、売却してお金を増やすことだけが目的ではない使い方を発見していく必要があります。地方創生×Web3の文脈でさまざまな取組みが始まっていますが、それはその萌芽といえます。質問への回答にはなっていませんが、NFT、FTの使い分けを考える前に実現したいコミュニティと関わり方のビジョンを描くことが求められるでしょう。

 

事務局:現在、ブロックチェーンのプラットフォームとしては、イーサリアムが使いやすい仕組みを備えているということで、このプラットフォームを使用してトークンを発行しているケースが多いと思いますが、今後トークンを発行するとしたらどのような仕組みで発行することができるでしょうか。

 

高野氏:イーサリアムは電力浪費問題などを理由に、コンセンサスアルゴリズムをPoWからPoSに移行しましたが、これは「We reject kings,presidents and voting. We believe in rough consensus and running code.」の精神から離れていく可能性もあると理解しています。一方でTwitter 創業者のジャック・ドーシー氏が率いるモバイル決済企業Block の子会社、TBDがPoWのビットコイン・ベースで「Web 5」と呼ばれるより分散型の基盤をつくろうとしています。さらに当財団シニアフェローの斉藤賢爾氏が推進している、ドメイン(コミュニティ)間の対等な連携と履歴交差の持ち合いを前提としたBeyond Blockchainもあります。
現時点でウォレットを保有している人が一番多いのはイーサリアムであり、イーサリアムベースで発行するといった現実的な判断はあるかと思いますが、中長期的にはWeb5、Beyond Blockchainのほかにもまだ見えない選択肢が登場してくるでしょう。自分自身としてはリアル社会を包摂する真のDAO醸成に資する選択肢の提供に当事者として積極的に関わっていきたいと考えています。

 

事務局:お話に出たシニアフェロー斉藤賢爾氏は、先述の「持続可能なコミュニティ経済の創造」に関する共同研究のメンバーでもありますが、一方で、小中学生を対象にした「アカデミーキャンプ」を毎年開催しています。そもそもは311で被災した福島の子どもたちにリアルでキャンプを提供しようと斉藤氏が代表になって開始された取組みですが、新型コロナの感染が拡大した2020年からはオンライン上で開催中です。
昨年、今年はオキュラスを着用して仮想空間にある宇宙旅行をしてくるというキャンプになっているようですが、この取組みから教育でデジタルを活用することの将来性についての考えを聞かせてください。

 

 

高野氏:学びの体験や時空間感覚の共有のために、いわゆるメタバースが本領を発揮できることは間違いないでしょう。アカデミーキャンプの活動が素晴らしいのは、大人なコンテンツとして用意した仮想空間としての宇宙を子どもたちがユーザとして体験するのではなく、宇宙空間を子どもたち自らが創造し、その空間を仲間や専門家といっしょに探検、さらにヘッドセットが苦手な親御さんには仮想空間での活動の様子をZOOM等でも共有、仮想空間内の子どもたちとリアルタイムで会話できる圧倒的な参加性であり、まさに「DX Yourself」そのものであることです。

 

事務局:日本の教育でのICT活用の遅れについては、何度か話し合ってきましたが、現在どのようなことが必要だと考えておられるか聞かせてください。

 

高野氏:アカデミーキャンプがよい例かと思いますが、まず身近なところでできることを仲間といっしょに進める、小さな実行を積み重ねることが必要です。そのためのデジタルデバイスやシステムは安価で手軽にアクセスできるようになってきたことは歓迎すべきことであり、それを当事者として良き志で良き仲間とどう使いこなすかがポイントでしょう。

 

事務局:その他、これは伝えておきたいということがあれば聞かせてください。

 

高野氏:信頼資本財団の活動はリアル社会中心であり、デジタルへの対応が遅れていると考える必要は一切ありません。むしろ、リアル社会で実践している自律分散型のコミュニティ活動を通じて、Web3ネイティブな人々に刺激を与え、積極的に交わり、進むべき道をともに創造していくことを期待しています。

高野雅晴氏

 

1988年東京工業大学修士課程修了
1988年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社、
日経エレクトロニクス編集記者として従事。
1995年半官半民のデジタル・メディア研究開発会社「株式会社ディジタル・ビジョン・ラボラトリーズ」設立に参加。R&Dマーケティングを担当。
2000年株式会社ビットメディア代表取締役社長に就任。
ストリーミング配信システム「ShareCast」、新しいお金を具現化する「EcoCa」とともに、電力×IoTの新規ビジネス創造を目指す「SmartPower」を推進中。
2019年8月株式会社SDGsテック設立(代表取締役)
第 5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)アプリケーション委員会利用シーンWG主査

 

■著書
「新しいお金」(アスキー新書)など