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2022.11.25

【事業に関する本質を問う】
30年数々のコミュニティをつくってきた実現力の源泉

 

那須まちづくり株式会社代表取締役 近山恵子氏

 

信頼資本財団事務局(以下、事務局):近山さん一般社団法人コミュニティネットワーク協会(以下、コミュニティネットワーク協会)の設立メンバー・理事長として、長く全国への高齢者住宅の設置に関わってこられました。
現在、同協会とも連携しながら別会社を設立し、閉校した小学校跡地に驚くべきスピードで多様な住居を建て、「那須まちづくり広場」(2020年「地域づくり表彰」で「国土交通大臣賞」を受賞)というコミュニティをつくっておられます。
これまでの一連の活動について、お話しいただけますか。

 

近山恵子氏(以下、近山氏):私たちはこれまでコミュニティネットワーク協会(1999年設立)の活動を通じて、“誰もがどこででも自分らしく暮らすまちづくり”という「100年コミュニティ構想」をすすめてきました。その一つとして、栃木県那須郡那須町では、2006年に「那須100年コミュニティ構想」を立ち上げました。高齢者や子ども、障害をもった人たちも含む多世代が、健康で充実した暮らしができ、また環境共生に配慮し、6次産業を推進し、障がい者の仕事づくりも進めるという構想です。
2010年に開設したサービス付き高齢者住宅「ゆいま〜る那須」を中心に、「森林ノ牧場」や「NTTデータだいち」と連携し、実践してきました。
2016年に那須町立朝日小学校が廃校になり、この校舎と校庭を見て、こここそ「那須100年コミュニティ構想」の実現の場所と確信しました。那須町が公募した旧朝日小学校跡地利用の活用事業者に採択いただいたことから「生涯活躍・安心な少子高齢社会の拠点」として「那須まちづくり広場」の事業が始まりました。会社も設立し、幸い5年間の活動で、ここまでの事業を実現することができました。

「那須まちづくり広場全体図」2022年(今年)末には完成

事務局:長い活動期間中、常に「よそもの」としていろんな地域に入り、そこに高齢者住宅を建て、運営をしてこられました。

地域に入った時に、壁だと思われたことにはどのようなことがあり、それをどのように解決してきたのでしょうか。

あるいは解決できずに残ったのはどのような問題だったでしょうか。

 

近山氏:私は新潟の田舎の出身なので、都市部ではない地域暮らしのことがある程度はわかります。地元の人たちはなかなか本音を言ってくださいません。当たり前ですが、お会いしたら、まずご挨拶をして、できれば、お話をして、地域の様子を知るようにしてきました。地域のみなさんは「よそもの」のことを実によく見ていらっしゃいます。何をするにしても、地域のお話をうかがいながら、合意形成をして丁寧に行動することが大切だと思って実践してきました。
地域には多様なニーズがあります。家の近くで働く、子育てしながら得意なことで起業する、流通に乗りにくい野菜を活用するために販売と加工を行う、自然食品の購入と販売の場、ふらりときておしゃべりしたり相談したりボランティアができたりする居場所、24時間のホームヘルパー対応、教え教わる機会のあるイベントなどです。
地域課題として、見えたことを一つずつ那須まちづくり広場で解決してきました。よろず相談所もしばらく開催しました。これによって、表面化していない困りごとも見えてきました。まだまだ地域ニーズに沿った実践が十分にはできていないと思っていますし、実践すればするほど新しい壁は出てきます。私たちはそれを「ニーズは成長する!」と呼んで、当たり前のこととして受けとめて進めています。“誰もがどこででも自分らしく暮らす!”の目標に沿って活動を継続することで、住民と一緒になり、参加型で地域課題の解決が進むと思っています。

 

事務局:上記のようなご経験も踏まえてのことだと思いますが、「那須まちづくり広場」では、地域との関係性を重視して、多様な機能を施設内に組み入れたり、地域の組織に事業を任せたりといった新たな試みをしておられます。その取組みの内容と、なぜそのようにされたのかという理由を聞かせてください。

 

近山氏:誰もができるだけ自立して暮らすことを考えています。これを基本に、心身の脆弱性を考えると、徒歩圏内に、それなりの生活環境が整っている居場所が大切となります。また、わざわざ出かけなくても、人々が集まってくる文化的にも豊かで楽しい仕掛けが必要となります。そして、働くことで経済的自立にも近づける仕掛けをと諸々考えると、自立生活に必要なたくさんの機能がある方が、少子高齢社会の新しいコミュニティになりうると思います。「ごちゃまぜ」は相乗効果を生みます。つまり、仕事、住まい、ケア、学び、文化活動など、さまざまな機能が歩いて行ける生活圏にあることは、とても意味があるのです。
地域の事業体は小規模で、ひとつの事業体でたくさんの事業をやることはできません。そのことがいいと思っています。何をなすにも話し合いを前提とし、助け合いをし、連携しなければならないからです。
そして、そこからこぼれ落ちるような「愚痴」を聞きあい、課題にすることも大切です。それぞれの事業は地域の方にお願いし、私たちの会社は、地元の事業者がやれないことはやりますが、基本的に、企画とマネージメントと大家業をやっています。
私たちが目指す“誰もが、最期まで、その人らしく暮らせるまちづくり”のためには、事業をやってくださるみなさんと私たちが理念を共有し、理念に沿って実行することが大切です。「ごちゃまぜ」であるがゆえに、理念の共有と実践はなかなか難しいものです。言葉では一致しているようでいて、いざ実践するとかなりの違いが出てくる。継続的な話し合いとそれに基づいた実践ができているか、月1回程度の話し合いをもって、何かあれば解決にあたっています。そのことで多世代、多文化の人々が育ちあっていると考えて進めています。なかなか根気のいることですが、この過程なくしては、“誰でも、どこでも、自分らしく”は、なりゆかないと思っています。
那須まちづくり広場は開設5年目となり、若い方々が多く出入りするようになりました。どのような形で次世代へバトンをわたすことができるのか、今後がとても楽しみです。

 

事務局:新たな地域コミュニティを立ち上げていこうとする時に、どのような人材、そして組織形態が必要だと思われますか。

 

近山氏:何よりも大切なのは理念です。人間の尊厳を尊重し、他者に寄り添う気持ちを持ち、より良い社会をつくるために挑戦することをいとわない人が必要です。
組織は目的に沿ってつくり維持すれば良いと考えています。目的がぶれなければ多様な組織が一体となって行動できると考えています。
コミュニティネットワーク協会は、開設当初より、人材育成に力を入れ、まちづくりに必要な人材として地域プロデューサー養成講座を開催しています。今年は、東京家政学院大学のシニアと大学院生の方々とで、多摩プロジェクトの現地見学、那須まちづくり広場での合宿を実施しました。

 

事務局:近山さんたちの活動を15年余り見てきて学びたいといつも思っていることがあります。一つ前の質問にも関わっているのですが、「コミュニティ」と言いますか、「場」を維持していくための人の配置やルールについてです。
どんなに善良な人が集まっても、頭で人間や組織のことがわかっている人が集まっても、人と人が長時間にわたって共に過ごせば、必ず軋轢は生まれるものだと考えています。その時に、どう個々が対応していくか、コミュニティが対応していくかは、「コミュニティ」あるいは何らかの「場」を持続可能にしていくために最も重要なことだと考えています。
もちろん状況に応じてその場を離れていく人が居るのは当然のことですが、そうした別れも含めて、場の管理人とでも言うべき人は必要か、必要だとしたらどうあるのが良いと思われますか。また、場の中に事前にどういうルールを埋め込もうとして来られましたか。

 

近山氏:特にルールはないのですが、話し合いを大事にしています。どこかに「コミュニティ」、「場」をつくろうと決めたら現地調査を住み込みでやります。24時間暮らすことが大事です。24時間暮らすことで地域課題が立ちあがってきます。そして、地域の方々と定期的な話し合いの場をつくります。おじいさん、おじさんという長老と男性ばかりの飲み会にお誘いを受けることもままあります。那須まちづくり広場では、ほぼ毎月話し合いを持ちます。その話し合いを「人生100年まちづくりの会」と呼んでおり、今年12月で開催35回目となります。
ルールと言えば、那須まちづくり広場は価値の交換を進める「那須まちづくりの会」があります。支援を受けたいことと支援できることを登録して「あさひ通貨」という地域通貨のような仕組みで助け合いをしています。ニーズは送迎希望が多いです。それで、送迎中心の「NPOワーカーズコレクティブま~る」を運用することになりました。サービス付き高齢者住宅の住民が全員会員になることで事業が成立します。ニーズが成長し、地域の仕組みになった好事例です。
また、那須まちづくり広場を利用する人が、自分で判断して広場を維持するという表には見えないような信頼をもとにした仕組みもあります。本の貸し出しは、置いてあるノートに自分で記録して何冊でも借り、何時返してもよいようになっています。「広場には1週間寝泊まりして読みたい本ばかりだ」と言われるので「100冊いかがですか」と言ったら、「そうだな、軽トラで来ないといけないな、、」などと冗談が飛び交います。アートギャラリーも出展者以外に管理者はいません。壊すことも、持ち去ることも可能ですが、5年間そのようなことは起きていません。信頼や心地の良さは小さなことの積み重ねから生じていくと思っています。
もうひとつ、人生の師匠・小西綾さんから口を酸っぱく言われたことがあります。それは「仲間でケンカするな!」ということです。「敵は外にいるんやで(師匠は関西出身の方です)。せっかく出会った人たちでケンカしてどうするんや」、本当の敵の思うつぼではないかということです。敵は時によって、国家だったり、グローバル企業だったり、自分自身だったりします。暮らしを破壊する敵を相手にするときに、仲間同士がケンカをしている場合じゃない。私はこの話をよく若い人にしますし、自分でも心に銘じて行動しています。

閉校した那須町立朝日小学校
旧校舎の2階は「ひろばの家・那須3」に
旧校庭に建つ「ひろばの家・那須1」は完成間近

事務局:活動では事業に欠かせない収支面も常に強く意識してこられたからこそ、長く活動が続いてきたという側面もあると思います。現在の活動における経理面の在り様、ご苦労などを教えてください。

 

近山氏:今回の那須の事業は30年間の事業シミュレーションを持ち、状況にあわせて改訂をしています。これまで30年以上、高齢者住宅や周辺事業を実践してきましたので、地域の困りごとを新しい企画にして、事業シミュレーションをつくって完成させ維持するノウハウがあります。那須まちづくり広場の活動は、当初2年間、コミュニティづくりに注力しましたので多少赤字でした。改修をして住宅などが立ち上がってきた昨年度にようやく黒字となり、今年度、累積損失を一掃しました。計画より少々前倒しの安定した経営ができています。
苦労したことと言えば、融資を受けることでした。幸い、現在建設中のサービス付き高齢者住宅「ひろばの家・那須1」の融資をしてくださっている銀行は、地域再生のための融資のあり方を模索している金融機関であり、まちづくり会社である当社は、良い関係をつくれています。

 

事務局:国や地域の施策に望んでおられることがあれば教えてください。

 

近山氏:「これ以上制度の改悪はするな!」と声を大にして言いたい。現在、国は介護保険制度の改悪を検討しています。日本の社会保障制度の根幹が変わるようなことを、さらりと変えようとしています。なんとしても、ストップさせたいですね。
また、制度を現場にあわせて運用することも切に望んでいます。自立支援の一番の担い手であるホームヘルパーが低賃金のため、24時間の在宅ケアができていません。国は施設を減らしています。政策を変更するときはそれに代わる受け皿づくりを前提とし、互いに学びあうことで適切で継続的な運用ができるようになると思っています。
介護保険のケアプランをケアマネージャーだけでなく、当人や家族、友人などがつくってもいいことを知っている人は少ないと思います。そうした情報を知ることで、互いを思いやる良好な方法が生まれることを多くの人に経験してほしいです。

 

事務局:「那須まちづくり広場」の施設立上げは終盤に差しかかっていますが、今後やっていきたいのはどのようなことですか。

 

近山氏:障がい者グループホームの開設は、当初からの計画にあります。スタッフ不足に直面し、まだ着手しておりませんが、来年1月から再開します。やりながら新たな課題となったこととして精神障がい者の方々のグループホームがあります。
また、那須町エリアには、たくさんの空き家があります。そこを再生して住んでいただき、那須まちづくり広場の新しい自立支援サービスを届けることで、誰もが、最期まで、その人らしく暮らせる場所が広がります。そして、仕事が増えることで若い方々の移住も進むと思います。すでに那須まちづくり広場の実践で、若い方々の移住が始まっています。別荘の空き家が多い那須町ですが、自分仕様に改装することで、住みやすくなり、またその改装を仕事にすることもできます。地域の困りごとは新しい仕事と考えています。
そして、何よりも力を入れたいことは、那須まちづくり広場でつくられた仕組みを全国各地に広げることです。

 

事務局:その他、これは言っておきたいということがありましたら教えてください。

 

近山氏:ますます厳しい社会環境が待ったなしの状態ですすんでいます。互いに連携し、知恵を出し合って実践し、あちこちに新しいコミュニティを創造しましょう。私たちはそれを「コミュニティ革命」と呼んでいます。
まずは、ご自身の生活設計をやってみてください。幾通りもの暮らしの選択があることに気づきます。ご自分の可能性が広がります。良かったら、学びと実践を進めるために、那須まちづくり広場を人材研修の場としても活用してください。ともに学びあい、実践していきましょう。
40年前に、私の人生の師匠・小西綾さんからいただいた言葉が心にしみます。「みなさん、こんないい時代はありません。お手本のない時代です。自分の頭で考えて行動してください。」

近山(駒尺) 恵子氏

 

1971年北里大学衛生学部卒。親の介護をきっかけに「老後・介護・女性」に関心を持ち、一人でも自立して暮らせるケアの仕組みづくりに携わる。さらに高齢者の住まいをプロデュースし全国展開する。
2007年(一社)コミュニティネットワーク協会理事長に就任。現在は同社団運営の高齢者住宅情報センター室長。
2018年「那須まちづくり株式会社」代表就任。2020年国土交通省「地域づくり表彰事業・小さな拠点部門『国土交通大臣賞』」を受賞。

■著書
1998年 「こんにちは“ともだち家族”」(風土社)
2015年 「自分で選ぶ 老後の住まい方・暮らし方」(共著:彩流社)
2018年 「どこで、誰と、どう暮らす?」(彩流社)
他、共著、雑誌掲載等あり。