信頼資本財団について 社会事業を応援する

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皆さまに今伝えたい、知ってほしい財団からのメッセージ
2023.05.15

「信頼」もまた「資本」になる
社会を目指して 

 

今月は、設立15年目という節目の記録に、当財団のこれまでの振返り、今後の展望を軸に、事務局がインタビューを受ける形をとりました。

 

 

■「信頼資本財団」について、あらためて教えてください。
2009年1月、東京で設立した「信頼資本財団」は、同年秋に内閣府から公益認定をとり、全国で活動ができる公益財団法人格になっています。
あまりにも金融資本中心の社会、お金がないと何も解決しないという世の中になりすぎたのではないか、その結果さまざまな社会問題が次々に増えているのではないか、人類が培ってきたお金も便利なツールではあるが、「社会関係資本」という人と人の関係もまた資本つまり元手になるような社会、そういう社会にしていくことはできないだろうかと、現代表を務める熊野英介がファウンダーとなり、同様に考える仲間たちと共に立ち上げた財団です。

 

■事業内容は。

財団で行っている事業は大きく分けて、3本の柱があります。
1本目は社会事業に対し行っている無利子無担保無保証の「信頼資本融資」。対象事業の判断ポイントは、人と人、人と自然の良質な関係性を増やしているかどうか、です。無利子で融資をする代わりに、融資実行の際、他の事業でも参考にできるような社会課題を解決する知恵・知見を出していただいています。
また、審査通過後、その事業を応援してくれる「信頼責任者」3名以上が揃ったら融資実行という条件があります。通常の融資にある保証人のように、いざとなったら代わりに返済する人ということでは全くありません。事業を行うのならば、「信頼するあなたのやることなら応援するよ」という人が3人ぐらいはいるだろう、そういう関係性がある人たちを応援団として融資を受け、関係性を増幅させながら事業を行っていってくださいという意味です。次々に難題に直面する事業を継続していくには、いずれにしてもそういう応援団のような人が必要だと考えているからです。融資期間中は、定期的に事業報告をもらい、財団からも事業のアドバイスを行うという伴走を続けます。
この形の融資は創立時から続けていますが、支払いが滞ったということは現在まで1件もありません。

 

2本目の事業が「共感助成」です。これは各非営利団体と財団が共に寄付を集め、その寄付をベースに助成をするという事業です。この助成先にも、同様の理由から、先述の「信頼責任者」3名以上をお願いしているというのが大きな特徴です。

 

そして3本目の事業が、2015年スタートの「社会事業塾」とこれを種にした社会関係活性化のための仕組みづくりです。財団では、社会を変えようと行動をしている人たちは、みな「社会事業家」だと捉えています。「A-KIND(アカインド)未来設計実践塾」と名付けたこの塾は、民間向けの「A-KIND塾」と行政職員向けの「未来設計実践塾」として開講していたふたつの塾を、コロナ禍において統合し生まれたものです。財団が目指す「社会関係資本もまた資本になるような社会」をさまざまな場で共に目指してくれる仲間をこの塾を通して増やしていきたいと考え、学びあう塾としてきました。

 

事業でつながった人たちが年々増えていきますから、年に一度一堂に会して、共に学び、関係性を増やしたり深めたりする企画「信頼デイ」も2013年以来続けています。

 

■財団の有する「社会関係資本」とは。

財団の周りには、事業の対象になる方たち、塾生・卒塾生やフェロー、そして応援してくださるみなさんがいます。

 

財団が支援・応援するのは社会事業家です。これは先述のとおり、広義で「社会を変えようとしている人たちすべて」を指しますが、なかでも重点を置いているのは、事業を自ら立ち上げた人たちです。社会事業を立ち上げた人は、やむにやまれぬ気持ちで、何とかこの問題を解決したいという想いに衝き動かされて始めたということが多いのが実情です。その結果、想いだけが先走って、困っている人がいるのだから給料をあまりもらわなくてもやっていく、余裕がないなかでボランティアでもやむを得ないと目の前のことだけに取り組むあまり、様々な意味で苦しくなり、結果的には「社会課題解決事業は継続しない」ということになりがちであると、ずっと言われてきました。

そこを解決していくために、資金だけに頼りすぎるのではなく、社会関係資本も増やしていけるようにという事業支援を常に意識しています。

 

仲間や応援してくれる人たちというのは、財団の社会事業塾卒塾生、営利非営利それぞれの事業家や学者・研究者、行政や士業の方なども含め、多岐にわたります。社会関係資本に深い理解を示してくれており、通常「財団」と聞くとイメージされるような権威のある方たちだけが集まっているわけではないというのがひとつの特徴と言えるでしょう。財団の「知恵袋」であるシニアフェローやフェローに名を連ねてくださる方々以外にも、「声を掛けてくれればいつでも行くよ」という方々が大勢いてくれる、つまり年月を経て、社会関係資本が豊かに積みあがっているのは、心強い限りです。

 

人から人へ、あの人とつながって欲しいと紹介されながら仲間が増えていったというのも、実に当財団らしいと言えるかもしれません。

 

■コロナ前とコロナ後で社会に大きな変化がありますが、この間の経験によって財団はどう考えるようになったか教えてください。
財団は、2019年度休眠預金の通常枠に続いて、2020年に緊急コロナ枠事業をスタートしました。これは、コロナで困った状況になった人たちを支援するための実行団体を採択するという事業でした。

いま、コロナによって引き起こされた、あるいは拡大した問題は解決したのだろうか、と考えると、以前のような生活が戻り始めて、問題が目に見えにくくなっているだけなのではないかとも感じます。あのとき学校にも家庭にも居られないと行き場をなくした子どもたちや、住居を失った人たち、仕事を失った人たち、飲食店をはじめとした事業への影響など、さまざまあったはずの問題は、ある程度解決したかのように表立って触れられなくなりました。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が発端となった日本を含む世界経済の変化による影響と相まって、これから長い時間をかけて、暮らしへのさまざまな影響が顕在化してくるだろうと考えています。

特に事業者に関して言うと、公的に行われた、いわゆる「ゼロゼロ融資(コロナ融資)」の影響です。その返済の猶予期間を過ぎて、いよいよ返済が始まった方々もいます。貸替えの制度も生まれているようですが、いずれは来る返済に耐えうる事業の方向性が明確になっていない事業者が多いのではないかと考えています。もうすでに倒産件数が増えています。

財団としては、社会関係資本を増やしながら、持続可能な事業を目指す事業家をより一層多くしていくための支援が必要だと考えています。すなわち、過度に金融資本に頼りすぎず、人と人との関係性、社会関係を資本と捉えて、それを増幅させる軸を失わない人たちです。創立以来、そういう事業を行っていく人たちこそが社会を変えていく力があるのだ、希望をつくる力を持っているというふうに考えて支援し続けてきましたが、激動する時代にあっては、こうした事業家を増やすことができるよう支援し、相互扶助しあえるネットワークを広げていくことが、より重要になっていると感じています。

 

■“これから”に備えて立ち上げた「経営者のための塾」について教えてください。
先述のようなことから、この度、起業あるいは事業を継承して社会を変えていこうとする経営者を対象にした新たな塾も立ち上げました。「塾」と言っても、互いに現場を訪問しあい、学びあい、時間をかけてネットワークを広げていくことに力点を置いたもので、これを「風伝塾」と名付けました。

5年後10年後には、3本柱でつながっている人たちや、風伝塾の塾生である経営者がさらに関係性の網を広げていることをイメージしながら日々の活動を続けています。

 

■今後について教えてください。
15年前と違って、「信頼資本」「共感資本」という言葉を容易に理解してくれる人は隔世の感があるほど増え、どんなに時間をかけて話しても概念が通じないといったことはなくなってきました。

しかし、一方で、私たちも関わった休眠預金の活用をはじめ、コロナ禍を経てさらに大きな補助金や助成金が社会事業に配られている現状があります。公的支援の手が届かず、まずは社会事業で支えなければならない人たちが多く存在しているのは事実ですが、一方で、自ら知恵を絞り関係性を築き上げながら手にしたお金ではないお金が突然大量に注ぎ込まれた組織がその後どうなるか、支援をする側はしっかり自覚しなければならないと改めて感じています。

 

「インパクトを出さなければ」といった合理性への偏重や「社会事業を特によくわかっている人間こそが社会事業を主導できるのだ」といった傲慢が自らに生まれぬよう厳に戒めながら、経済政治はもちろん、人間のこと、文化のこと、テクノロジーのことを学び、考え続け、まずは100年後までの幸福な社会の在り様を模索し、仲間と動いていきたいと考えています。

 

 

取材月:2023年4月

聞き手:西田奈都代

話し手:事務局長(取材当時)川島和子