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皆さまに今伝えたい、知ってほしい財団からのメッセージ
2023.12.26

【事業に関する本質を問う】
規模より事業展開によって地方を楽しむ
~悠々とローカルビジネス~

 

株式会社See Visions代表取締役 東海林諭宣氏

 

信頼資本財団事務局(以下、事務局):東海林さんは、秋田市中心部で「ヤマキウ南倉庫」のような場の立上げから運営、グラフィックやウェブのデザイン、編集出版、飲食店経営、さらには自治体をパートナーにすることもあるさまざまな企画運営で地域の魅力を引き出す活動を行っておられます。

そうした東海林さんの話は、同様に地域を盛り上げるローカルビジネスをやっている、あるいはやりたいと考えている人たちの参考になることが多々あると思うので、ぜひ、シェアしてください。

(KO-ENを中心に店舗が点在しているヤマキウ南倉庫)

【事業を立ち上げるまで】

事務局:まずは、ご自身のバックグラウンドや株式会社See Visions設立までについて教えてください。

 

東海林 諭宣氏(以下、東海林氏):秋田県の美郷町(旧仙南村)で農家の21代目の長男として生まれました。

しかし、父に「もう農業の時代じゃない、公務員になれ」と言われ、進学校の公務員課程に進みました。当時は超氷河期で、採用倍率が300倍と言われるような受験に向かいましたが全部落ち、東京の大学に進学しました。

やりたいことが見つからない中でしたが、大学を口実にせっかく東京へ出ることができたのでやりたいことを見つけようと思いました。親は秋田から出すことを快く思ってはいなかったので、学費は自分で払うように言われ、奨学金は35、6歳まで返済していました。

アルバイトでいろいろな仕事をする中、親戚のプロモーションビデオの会社でデザインを始めました。これが楽しくて、飽き性の自分にも飽きずにやれるということがわかったので、そこからダブルスクールで広告の学校に行ったりして学びました。

大学卒業とともに際コーポレーション株式会社という飲食店を全国展開している会社のデザイン部門に入社しました。

社員教育が猛烈な会社だったんですが、最初のうちは社長にはすごくかわいがられていました。それはそれで気分は良かったんですが、皆はどんどん叱られている中、認められていない感じもしていました。2年目くらいにようやくがっつり叱られまして、そのうちに社長の言いたいことが分かるような感じになり、デザインができるようになっていったのかなぁと思います。

とにかく、寝ないで通常の10倍の速さで仕事をやるような2、3年だったのですが、やりたいことだったから楽しくやっていました。しかし、そろそろ自分でやってみたいと思うようになって、26歳の時に独立し、フリーランスで仕事をするようになりました。

そして、秋田での仕事を探していた時、総合結婚式場の方と知り合って仕事をもらったのを皮切りに、秋田の方で仕事がどんどん増えてきて、1人入れ、2人入れという感じで大きくなり、独立して1年目の2007年、27歳で会社を設立し、デザイン会社であるその株式会社See Visionsは18年目になりました。

 

【会社経営】

事務局:他の法人でもそうですが、特に会社経営ということになると、資金調達と人のマネジメントつまり組織運営を常に意識しながら、事業を行っていくということになりますね。

東海林さんが、この2点をどうされているか、ぜひ教えてください。

 

【組織運営という関係性構築】

東海林氏:組織ですが、地方の中核都市である秋田市というところに拠点をおいてデザイン会社をやりつつ、自分たちが楽しんでいけるようなエリアをつくったり、飲食店を立ち上げてきたりしてきたことで、その姿勢というかやりたいことは、言葉にしなくても伝わっていて、スタッフは共に一つの方向を見てくれているなと思うことはあります。

そういう意味でいうと、地方だったからできてきた事業だし、目に見える形にしてきたことが会社運営でも結構な功を奏していると考えています。

そもそも僕は、事業は自分一人ではできないと考えているので、信頼関係の下、人にお願いするとか任せるとかができるのが、僕の得意技なのかなぁと思っていて、それが、事業が広がったり人が増えたりしてきた理由の一つかもしれません。

(毎年撮っている集合写真)

デザイン会社で18人くらいの規模って、東京を含む全国でもあまりない大きめの規模ではあります。

しかし、規模を求めてきたわけではないし、今後もそのつもりはなく、自社事業やクライアントワークなどいろいろある中で、それぞれが地域のことを考えながら責任を持ってやっていくっていうスタイル、ある意味フリーランスの集まりみたいになってるのがいいんでしょうね。

 

事務局:そうしたスタイルと伺ったので、あらためての確認ですが、会社の形態は株式会社ですね、合同会社といった形態ではなく。

 

東海林氏:はい、株式会社です。

 

事務局:ということは、フリーランスの集まりのようだと言っても、最終的責任は、東海林さんが腹をくくって持つという体制ですね。

 

東海林氏:そうです。

基本的には営業マンのような人がいなくて、僕ともう1人の副社長の2人が、入ってきたお仕事をどういうチーム編成でやるかを考え、社内のライター、編集者、グラフィックデザイナー、ウェブデザイナーそしてディレクターを組み合わせ、それぞれ進めていくという感じです。

 

事務局:やはり営業はきちんとやっていかないと会社がまわりませんよね。

 

東海林氏:そうですね。仕事は、楽しむとかそういう考えだけではなかなかやっぱり越えられない部分があると思っているので、自分たちでいいものをつくり、ちゃんとそれを見ていただくという活動はしています。

それだけではなく、事業展開としても、イベントの企画から運営段階までやりますし、何でも引き受けます。

あとは自社で雑誌を制作することで、そこでつながった企業からの依頼というのが結構増えてきていて、雑誌に事業広報的な効果があるようだと思っています。

雑誌制作事業そのもので赤字が出ないようにというのがまずは大事ですが。

 

事務局:すみません、突っ込んだ話になりますが、給与支給額はどうやって決めておられますか。

 

東海林氏:ディレクターという部長課長みたいな役職を置いて役職手当を付けつつ、あとは能力給で査定しています。ボーナスは年2回出していて、1回目は1ヶ月、2回目は0.8が基準で、1になるか、1.2あるいは1.4になるかといった感じです。

 

事務局:地方企業としてはかなりいい方ですよね。

 

東海林氏:はい、頑張って県庁の方々より貰えるようにすることが目標です。

 

事務局:大都市以外では、最も高給というケースが多い県庁職員よりも高くということですね。

 

東海林氏:そうです、地方では上場企業みたいな存在である県庁を超えたいと。

 

事務局:東海林さんのお人柄や会社運営の方法を見ていると、会社を離れていく人はほとんどいないような感じがするのですが、いかがですか。

 

東海林氏:離れていった人はいますが、ネガティブで辞めていった人は多分いないんじゃないかなと思います。

基本は一緒にやろうよ的な感じなので。

デザイン会社の他に飲食店の方もあって総勢30名くらいなんですけど、辞めていった人は30名くらいいて、どちらかというと独立が半数以上で20人ぐらい、10人ぐらいは県外に移動とか結婚でという方々が多いですね。

【出資・参画型の資金調達】

事務局:次に資金調達についても教えてください。

 

東海林氏:僕たちは、自らが大きなお金を借りて投資していくという形はとっておらず、投資をするべき方を仲間にしながら、「一緒に事業をつくっていきましょうよ」というやり方をとっています。

そもそも自身の事業であり、所有物なので、自分ごととして話に乗ってくださいますし、僕たちも儲けようという気持ちより、「ここにあるべきものを大事にし、必要なものをつくっていこう」という気持ちで拠点をつくっていく事業をやっているので、僕らが運営を担いつつ仲間になってもらって共にやっていってもらうという形です。

資金調達の方法としては、地元の金融機関が地域のために融資の伴走をしてくださることもあります。また、投資してくださる企業があれば、うちのヤマキウ南倉庫のオーナーさんもそうですけれども、新しい場づくりに参画いただいて、我々が家賃として投資への配当を出していくという形をとります。

利回りは小さいのですが、不動産投資としてみていただければ、長期でご一緒できると思いますし、何よりも、ここに来ると借りている店舗や企業の若いみんなが気楽にオーナーに声をかけ、一緒にイベントを盛り上げたり、チケット配布したり、そういうのを楽しんでくれている年配のオーナーさんも多いです。

配当というお金の喜びではなくて、一緒に楽しんでいただく、というのが我々のやり方です。

(オーナーによる投資、企画運営をSee Visionsが担う)

【事業構築に向けた地域での信頼】

事務局:秋田市での事業において、東海林さんが農家の21代目の長男であるということは、信用の担保のようなものになったと思いますか。

全くのよそ者でもそういったことは出来るものなのでしょうか。

 

東海林氏:僕はよそ者だったんですよ。同じ秋田県とは言え、ここから1時間ほど行ったところの出身だし、大学を卒業して十数年してからこっちに戻ってきているので。

信頼は積み上げていった感じですね。

秋田でデザインの仕事をいただけるようになって、飲食店の出店をする会社で働いていた経験をベースに飲食店経営を開始し、その信頼がある程度あったから、場の立上げ・運営に発展していきました。

しかし、この倉庫のオーナーさんのところに行った時、一旦門前払いを食らっていて、その後、息子さんが僕たちの話に乗ってくれて、ようやくやることになりました。

 

事務局:その時、息子さんが乗ってきてくださった理由を教えてください。

 

東海林氏:僕たちは、「建物を活用させてほしい」ということで行ったんですけど、そこは市の中心部だし、土地が広いので、既にスーパーや葬祭場などいろいろなところから使いたいという話が来ていたようです。

ただ息子さんとしては、目の前にご自宅がありますし、地域の隆盛時代に活気があった建物を手離し、それが壊されて、スーパーマーケットや葬祭場になるということをすぐには受け入れられなかった。

僕たちの提案は、建物をそのまま使うということで、ある程度の工事計画はありましたけれども、仮設的な考え方ということもできるかなということだったと思います。

いずれ他の業態を入れるとしても、それまでの間は僕たちの提案で使えるかな、という無理の少ない考え方だったので乗ってくれた、というのはあります。

 

事務局:そうした無理のない提案だったということもあるでしょうが、息子さんの記憶の中にある建物への思い入れにマッチする提案でもあったということですね。

 

東海林氏:そうですね。風景を無くしたくないという思いを持たれています。

あと、多分、地域の方々にも同じ喪失感を抱かせるのではないかという不安もあったと思います。

リノベーション絡みの事業では、そういった側面が多々あって、遺して使い方を変えていくということに、正義があるという感じがします。

 

【スケールアップは考えない】

事務局:お伺いしていると、やはり、事業でよく使われる「スタートアップ」からの「スケールアップ」という思考がないと感じますね。

 

東海林氏:僕は、上場するとかスケールアップさせるとかあまりイメージが持てないので、そこが弱い部分かなとも思いつつ、地方都市でやる事業だからこそ、こういう事業で横展開をしながら、規模を目指すのではなく、緩やかに長く続けていくということが必要なのではないかなと思っています。

もちろんすごく儲けるということは、貢献度としてはそっちの方が高かったりするのかもしれないですが、僕たちの事業ではそのイメージがあんまり湧かない。

よく誘われるんですよ、経済団体とか青年会議所、商工会議所だとか。

しかし、何回か行ったこともあるんですけど、ついていけなくて全然続かない。

 

【なんか違う地方創生】

東海林氏:最近は、全国的にも国や各自治体が地方創生とか事業創出とかを行うのが流行です。僕も秋田県の総合政策審議会委員をやらせてもらっているんですけれど、そこでもよく起業促進施策の話になります。

もちろんスタートアップとかスケールアップ、上場を目指すということもあるんでしょうが、「起業促進」を行政の方々が主導すると、KPI(重要業績評価指標)が出店数になります。するとただ飲食店とか美容院が増えたり、地域にとって意味のある起業促進となっているのかいつも疑問に思うんです。

こうした事業は、様々な条件から給料が固定化しやすいので、自分の人生のステージにおいて給料が決まってしまうという辛い状況になってしまいやすいと思います。

それよりは、様々なつながりで横に事業を展開して、いろんな、自分の状況の変化にも対応できるような環境がいいのではないかと考えています。

事業に興味がある若い人たちが、良い形で成長していってほしいので、うちの会社に入ってくる若い人のうち、やりたいことを見出した人には、それを会社で支援して、会社で新しい事業をつくるという社内ベンチャーをやっています。

 

【社内ベンチャー:不動産事業】

東海林氏:最近では、新入社員の子が3年目で「まちづくり」を具現化していきたいと言ってきたので、じゃあ不動産を始めようかということで昨年開始しました。

彼女が宅建を取得し、不動産事業の名前も考え、「あける不動産」としました。

今まで閉じていた建物の扉を開いていく、夜が明ける、未来が開かれる、そういった意味の「あける」です。

 

事務局:具体的には、今まで利用されていなかったところを発見してきて「誰か借りませんか?」みたいなことをされるということでしょうか。

 

東海林氏:僕たちがはじめたいことは、商店街にコンセプトをつくり、コンセプトに賛同してくれる新しい入居者と一緒に商店を開くことで、商店だけでなく商店街自体を開いていきましょう、みたいなことです。

「JUU(住)」という雑誌を創刊しました。これは注文住宅の雑誌で、雑誌自体も今までのスキームのように広告料をもらって雑誌を制作するのではなくて成果報酬型の雑誌になっています。

50社限定の工務店を掲載して紹介し、家を建てたい人とマッチングをすることを目的にしています。

そうすると、家を建てたい人は、まず土地が欲しい、というところからはじまるので、そこの部分でもあける不動産がお手伝いをしていきたいと思っています。

 

【信頼資本財団での経営者との出会い】

事務局:信頼資本財団が関わっている事業者には、営利の方も非営利の方もいます。

そうした法人格を超えた代表者だけの塾に東海林さんも参加してくれましたが、これによってご自身の中に変化があったと聞きました。

どのような点か教えてください。

 

東海林氏:塾長をされてきた熊野英介さんや経営者の方々とつながってお話を伺う中、自分自身で足りないことが明確になってきたような気がします。

皆さんと違って、経営者になりたい、事業をおこしたい、何かを変えていきたいといった思いで会社をつくったという意識が少なく、地域の課題を事業化しつつも、どちらかというと、流れで、まぁそろそろ会社にした方がいいかなぁ、どうせやるなら一人で悩んでるよりも二人で仕事や悩みを分けあった方がいいかなぁ、というような状態で会社が成長してきたので、いつもこれでいいんだろうかという感覚がありました。

ホームページの方にも昔から書いていること、クライアントさんともオーナーさんとも、一緒に考え、一緒につくる、よりよくするみたいなことは、自分の気持ちの中ではしっくりくる言葉だなと思ってたんですけど、それが正解かどうかも分からないなという感覚です。

しかし、塾に参加してみんなで話していく中で、なんかほんとに一緒につくりあげていくということが見えて、結構間違っていない、今の僕に一番はまったやりかたなのかなぁと思えるようになりました。

僕は結構口下手で、だからこそデザイナーとしては行動や出来たものだけを見て評価してもらえるので合っているということがあったんですが、最近、横につながっていくためには、どういう想いでやってきたのか、なんでこの事業をやっているのかということを言葉にしてしっかり話すことが重要なことなんだと認識し、気をつけるようにしています。

だらだらと長くなってもいいじゃないかと(笑)。

 

事務局:言い方が適切かどうかわかりませんが、ある程度の成果を出されている方は、義務として、あとに続く人たちのためにも体験をシェアしてもらいたいなと私たちも思っています。

その思いで、今日も設定しました。

 

【秋田を基盤に知恵知見の交換を】

事務局:最後にお尋ねしておきたいのですが、今後、秋田県以外にも事業を拡大していくおつもりはありますか。

事業立上げということではなく、ネットワークづくりの一環ということかもしれませんが、いろいろな地域に顔を出されていますね。

 

東海林氏:基本的には秋田県を中心に事業を行っていきたいと思っています。

事業はやる理由、意味がないとやれないんですが、僕にとっての意味は秋田県にあります。

秋田県で人を雇いたい、この場所が好きだ、といった理由でやることは揺るがないと思いますので秋田県で事業をやっていきます。

事業に関わってくれる人については、県境というのは考えていないので、東北一円でのツアーを考えたり、近い事業をしている人とつながりをつくっていろいろなことを回していったりはしています。

全国的に、同じことをやっている、あるいはやりたい人に、オープンソースで事業計画から何から何までお渡しして、立ち上げる時のお手伝いをし、やり取りを続けていければなとも思っています。

 

事務局:信頼資本財団が15年間続けてきた事業家のネットワークづくりにもつながりますね。

 

東海林氏:田舎、地方って、昔からつながりで生きているので、今、やっと正解を見出したような感じになってきています、東京に一度出たからかもしれないですけど。

農業の人たちは貸し借りだけで生きているようなものですし、かやぶき屋根を直す時も周辺の人たちで直さないとできない、という、そういうことも考えると、今はそんな時代になってきているのかなと。

そういう意味でも、オープンソースで今やってきたことをお渡しして、あちらからももらってという関係性が出来たらいいなと感じています。
また、2023年7月の秋田県での豪雨災害では、信頼資本財団の塾で共に学んだ皆様から多大なご支援をいただきました。

これもひとえに塾がつくるネットワークがあったからだと感じる出来事でした。

本当にありがとうございました。

(カフェ「亀の町ストア」の災害直後の様子)

東海林諭宣(しょうじあきひろ)氏 

 

株式会社See Visions 代表取締役/株式会社Spiral-A 代表取締役
1977年秋田県美郷町出身。
都内デザイン事務所を経て、2006年、秋田市に「株式会社シービジョンズ」を設立。現在は、店舗・グラフィック・ウェブなどのデザイン、編集/出版・各種企画/運営などを手がける。近年では「株式会社スパイラル・エー」を設立し、秋田市中心部で「酒場カメバル」、「亀の町ベーカリー」、「亀の町ストア」、「亀の町UP TO YOU」を運営。自社が入居する2015年のヤマキウビルリノベーション事業を機に、2019年の「ヤマキウ南倉庫」など、不動産活用によるエリアの価値創造を掲げ、各地の町の魅力を引き出す活動を精力的に行っている。