休眠預金助成先
インタビュー記事 -4-
インタビュー記事 -4-
■一般社団法人育ちとつながりの家ちとせ
●同団体プログラムオフィサーサポーター 大槻 彦吾
休眠預金による助成先と各団体の伴走者(プログラムオフィサーサポーター=POS)にインタビューして作成した記事を掲載しています。
各団体のインタビュー記事はPOSが、POSのインタビュー記事はプロジェクトチームである「チーム・Dario Kyoto」が行いました。
困りごとを抱えた子どもとその親へ~応用行動分析学に基づいたアプローチで支援~
一般社団法人育ちとつながりの家ちとせ
子どもや若者の引きこもり、不登校、行き渋りや、発達障害等の生きづらさ、育ちづらさという社会課題が、コロナウイルス感染拡大を契機に増加しています。一般社団法人育ちとつながりの家ちとせは、当事者である子どもや若者はもとより、応用行動分析学に基づいた保護者の方々への療育的支援の提供により、家庭において保護者がどのように子どもに関わればよいのかという具体的な方法を伝え、またその適切な関わりを継続していくために必要な支援を行っている団体です。
代表理事で子育て心理カウンセラーの石田千穂さん、理事で教育・療育・就労支援アドバイザーの高見雅子さん、理事で指導員の中島愛子さんに、これまでの取り組みについて伺いました。
■当事者としての“気づき”が起業のきっかけ
設立のきっかけは自身の経験からだったと、設立者の石田さんは語ります。お子さんが幼稚園に馴染めないということによる違和感から、2011年にフリースクールを立ち上げ、試行錯誤をしながら「子どもたちのよいところを育む」という取り組みをスタートしました。
しかし、さらなる違和感と出会います。「これはできるけど、こっちは無理やんか」という子どもたちの言葉にならない告白。せっかくよいところを伸ばしても、本人の上手くいかないところが邪魔をして、もどかしさから抜け出せない現実がそこにありました。
石田さんは、「これから子どもたちが出ていく社会につなげていくには、よいところを伸ばすだけでは難しい」と痛感し、「しんどいところに直接手を入れてあげなければ、よいところは活かされることなく終わってしまう」という考えに行き着いたそうです。
そんな折、高見さんとの出会いがありました。「高見さんの子どもたちとの具体的な手取り足取りの関わり方と、それによる変化を目の当たりにして、『あっ、これやな』と思ったんです。そして2017年に法人化し、今に至ります」。
困りごとを抱えているお子さんや若者のしんどいところに向き合いつつ、よいところも伸ばしていく。「どっちも要るよねぇ」ともう1人の理事である中島さん含め、三者が口を揃えます。
■「よいところ」も「しんどいところ」もサポートする
立ち上げ1年目は、ポツリポツリと2カ月にひとりくらいが来るという状況でした。
「ひとりひとりに対応しながらよくなってきたなというタイミングで、またひとりと増えていきました」。
さまざまなケースがありながら、重い困りごとを抱えた子たちがやって来て、今もその方たちの通所が継続しており、事業運営側の支えにもなっているのだそうです。
そのうち「広報をしていたわけではないのに、医療センターや一般の病院から紹介を受けて、来てくれる人が増えてきました」。お子さんの変化を客観的に見て関心を持った社会福祉士さんから、「どのような取り組みをされたらこのようになるんですか?」と、問い合わせも来るようになったと言います。
その取り組みとはどんなものなのでしょうか。
「表面的に見ているだけではわからないような、お子さんとの対話やリアクションを意図を持って行います。みんなの輪に入れない子のそばに寄り添い、対話をし、今このタイミングで勇気がほしいだろうなと感じたら、会話の途中でも自分がみんなの輪に入って見せる。これは傍から見たらわかりにくいかもしれないけれど、『こうしたら入れるよ』というお手本を見せて伝えているんです」。
最初は理事の3人もお互いにわからなかった景色が、今では「あ、そういうことね」と意図を汲み取ってサポートに回ったり、受け入れ側の輪に促したり。それぞれの得意なところを活かしてそれぞれの子をサポートする態勢が自然にチームプレーになり、その輪が利用者の保護者の方々を含めて拡がっていっているのが「何よりの財産です」、と語ってくれました。
■育ちとつながりの家ちとせのこれからの持続性
問題解決型支援を行いつつも、ずっと支援しつづけることが難しい現状があるのも一方で感じ、コロナ禍でさらに困りごとが増えている現状をどうにかせねば、と思い悩んでいた高見さん。そんなときに、利用者のお母さんから「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」を薦められました。
「最初は見逃しかけていたのですが、利用者のお母さんから改めて伝えていただいて、『これは』と応募したのが、休眠預金新型コロナウイルス対応緊急支援助成でした。採択を受けて、コロナ禍で金銭的課題を抱えていたり、おうち時間が増えたりすることで顕在化してきた問題を、解決するサポートを用意しました。同時に、今後のために伴走型の支援が続けられる仕組みをつくるというのが大きな課題です」。
平時もそうですが、緊急時にこそたくさんのサポート体制が多様な人々のセーフティネットとして求められます。さらにその持続可能な仕組みが今、改めて問われていると3人のお話から感じました。
■インタビューをしたPOS大槻より■
運営をされている石田さん、高見さん、中島さん3人が3人共、重い内容でも、しんどい内容であっても、語り口調がとても明るく、それぞれが自分の言葉でお話しされていたことが印象的でした。困りごとを抱えたお母さんは、多くの場合ひとりでその悩みを抱え、何が正しく何が間違いなのかもわからず、時として自分を責めてしまうこともあるのではないかと感じます。しかしこの団体には、同じような、あるいは自分よりも重い困りごとがあっても、重く抱え込むのではなく、前向きで具体的な行動によって日々仮説検証を繰り返した結果、解決事例を豊富に持つ方々がいます。インタビューでの「私たちが行っているのは育児方法を教えるのではなくて、その人がどっちの方向をめざしているのかを汲み取り、指し示してあげること。これは子どもも大人も同じだと考えています」との言葉通りに、困りごとを抱えたお子さんだけではなく、保護者の方々にも大きな安心を与えてくれるかけがえのない場になっているようです。
Information
団体名:一般社団法人育ちとつながりの家ちとせ
住 所:京都府亀岡市千歳町国分下ノ川51番地
HPアドレス:https://www.chitose-kameoka.com/
取材日:2021年9月24日
聞き手:大槻 彦吾