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関係先インタビュー

INTERVIEW
信頼資本でつながる人たち
INTERVIEW
Home 関係先インタビュー 休眠預金助成先インタビュー記事 -3-

■一般社団法人和音ねっと
●同団体プログラムオフィサーサポーター 中井 優紀

 

休眠預金による助成先と各団体の伴走者(プログラムオフィサーサポーター=POS)にインタビューして作成した記事を掲載しています。
各団体のインタビュー記事はPOSが、POSのインタビュー記事はプロジェクトチームである「チーム・Dario Kyoto」が行いました。

コロナ渦で日常生活が奪われた人たちを独りぼっちにしない
一般社団法人和音ねっと

コロナウイルス感染拡大により、生活上の困難を抱える人が増えています。今回の「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」の助成先である一般社団法人和音ねっとは、子どもから高齢者まで、誰でも困ったことがあれば相談できる居場所づくりで実績を積んでいます。
代表理事の櫻庭葉子さんに、これまでの取り組みについて伺いました。

caféあずまでの平和教室

 

■起業のきっかけは、公的支援だけでは解決できない困りごと
(一社)和音ねっとは、京都市で介護保険サービス、障害福祉サービスを提供しています。櫻庭さんは、介護ヘルパーからケアマネージャーとなり、介護を必要とする人の支援を行ってきました。
「自宅に出向き、要介護者の生活をサポートする介護の仕事をしていると、ご本人だけではなく、家族の問題に直面します。貧困や引きこもり、虐待など、家族が抱える課題は多様です。同じ空間にいるのに、制度の中だけで動く限り、支援できること、支援できる人が限られてしまいます。私が介護の仕事を始めた20年前から、家族の抱える問題は深刻でしたが、一個人でできることには限りがあり、制度の枠を超えた支援が必要だと感じるようになりました。そこで2008年に独立し、様々な方とのつながりに支えられ、2014年に和音ねっとを法人化しました。そして、制度の枠を超えて、助けを必要としている人の居場所づくりに取り組んできたのです」。

 

■「つながる・ひろがる・ささえあう」を“愛”言葉に毎日誰かがやってくるcaféあずま
「昨年(2020年)の夏に、地域の方から、コロナで娘夫婦のところへ引っ越しをするから、空き家になる町屋を地域の居場所として活用できないかと相談を受けました。コロナの時期に居場所をつくっても、誰か来るのだろうか、と思いましたが、まずはやってみようと秋から試験的にスタッフ3人で始めてみることにしました。最初は安価でドリンクが飲める週2回のカフェをスタートしました。妹が働く企業から寄付していただいた賞味期限の近い豆腐スープを必要な人に配るなど、できることから始めたのですが、新聞取材をきっかけに、何か手伝いたいという地域ボランティアの申し出も、困りごとを抱えた人も増え、徐々に支援の幅を広げていきました」。
そもそも京都市中心部で空き家を使わないかという相談を受けること自体、地域で頼りにされてきた櫻庭さんのこれまでの活動を物語っているのではないかと思います。週に2回だったcaféあずまと名づけたその場を開ける日も、やってくる人がどんどん増えるので、週3回、4回と増え、今では不定休でほぼ毎日開けています。年明けからは、「今日食べる物がない、トイレットペーパーがない」などの緊急性の高い相談が増え、食糧や衛生用品支援も始めました。
「地域の方々から、この場をこどもの居場所にもしてほしいという相談を受け、春からはこども食堂も始めました。コロナはこどもたちの日常にも本当に大きな影響を与えています。特に長期休みの時期は、コロナでこどもたちの行き場がなく、こども食堂をオープンした1日目は1人だった利用者も、2日目は5人、3日目は10人、4日目は18人と増えていきました」。

 

夏休み caféあずまでの大学生と子どもたち

 

■金銭的な困りごとを解決するために応募した休眠預金助成事業
不登校や発達障害、ひとり親家庭などのこどもたちの保護者から勉強を教えてほしいという相談も受けるようになった櫻庭さん。一方で飲食店などのアルバイトがなくなり、生活に困っているという大学生たちの声もあり、そうした大学生による学習支援ができないかと考えました。
「学生に限らず、こどもたちも、お年寄りも、あずまにやってくる人たちは、ただ助けられたいのではなく、誰かの役に立ちたいと願っています。学生たちには学習支援の仕事として、あずまに関わってもらい、こどもたちにも勉強が終わった後は、掃除のお手伝いをしてもらうなど、役割を持ってもらえるようにしていきたい、そうして助け合うことで支え合いを増やしたいと思いました」。
ただ、様々な事情を抱える家庭が多い中で、お金を徴収することは難しく、資金をどのように調達するかが課題でした。
コロナ禍が長期化し、金銭的な課題を抱える相談者が増え、行政や社協につないでも、これまで以上に公的支援だけでは対応できないケースが増える中、一法人の力だけでの対応には限界がありました。
さらに、感染拡大によって、コロナ陽性時の居室内のすみ分けができない家庭のこども一時宿泊場所、DVなどからの一時保護の場所も必要となりました。
そこで、安定的な食糧支援、学習支援、一時預かり保護を目的に、休眠預金新型コロナウイルス対応緊急支援助成に応募し、採択され、それぞれの事業を実施できるようになっています」。

 

■caféあずまを継続していくことが今後の課題
「休眠預金の助成期間終了後、活動が継続できないといったことにはならないようにしていかなければと考えています。この場を必要としている人は多いですが、この先もcaféあずまが居場所であり続けられるためには、資金を含めその仕組みが必要です。放課後等デイサービスなど、公的サービスとして提供できる部分は検討をし、京都市では現状なかなか集まらない食料などを含めた寄付を集める仕組みも充実していきたいと考えています。
また、自立ができる人には、ホームヘルパーの資格取得の講座を開設するなどして、手に職をつけるお手伝いをし、遺品整理や便利屋事業を行い、雇用も生み出していけるよう試行錯誤しています」。
櫻庭さんが大切にされている「つながる・ひろがる・ささえあう」という言葉があります。
しんどいところをさらけ出すのは誰しも嫌です。またひとりひとりのできる範囲は限られています。それでも、居場所があれば、自然と声をかけ合い、助け合いの輪が広がり、支え合えることがあるのではないか、と。「独りぼっちをなくしたいんです。そばで見守っている人がいるということが関わる人たちに伝わるといいなぁと思います。みんなで、声をかけ合って、もう少し生きやすい世界を広げていきたいと思います」。
現在のような緊急時も含めて地域の人の拠り所となる場は、今後ますます重要性を増していくと考えられます。都市の中でその形を創り出そうと日々奮闘する櫻庭さんのような人たちの活動を支える仕組みの必要性を痛感します。

 

 

インタビューをしたPOS中井より
caféあずまでは、支援する人、される人という関係性が見えません。インタビュー中に少女が「自分もスタッフの一員だから、壊れたトイレのドアを直したい」と私に相談にきてくれました。あずまにやってくる人、ひとりひとりが主体的に活動されているのがとても印象的です。たくさんの人の力を借りながら、自分たちの居場所を自分たちでつくっていくこと、自分にできることを見つけ、支え合うことができれば、これからの不透明な時代も孤独を感じず、生きていけるのではないかと感じさせてくれる場になっています。

 

 

Information

団体名:一般社団法人和音ねっと
住 所:京都市中京区西ノ京馬代町17-9
HPアドレス:https://waon-net.jp/

取材日:2021年8月20日
聞き手:中井 優紀

 

同団体プログラムオフィサーサポーター 中井 優紀

●生きることが難しいこんな時代だからこそ仲間とともに生きる喜びを知る

中井優紀さん。彼女は妻であり、お母さんである以外に二つの顔を持つ、バイタリティあふれる女性です。そのひとつが農家。お父さん他界後、お母さんが大病をされたことをきっかけに、夫・大介さんの実家のある大阪府茨木市千提寺へ移住しました。そこで彼女の生き方が一変します。

この地方に江戸時代から伝わる三島独活(みしまうど)。それを受け継ごうと村に一軒だけ残っていた独活農家に大介さんと一緒に弟子入りし、廃業の寸前でつなぐことができました。今では三島独活を継承するたった1軒の栽培農家です。その栽培法は自然の発酵熱を利用した伝統農法で、中井さんご夫婦が最後の継承者となり、千提寺farm.を創業します。
三島独活は、現在、唯一無二の味として、京都で一流と言われる和食の各店他、多くの飲食店が求める食材に成長しています。

そもそもは農業とは全くかけ離れた仕事をしていた中井さん。コンサルティングファームで勤務したのち、テーマパークでサービス向上や人材育成に携わっていました。そんな中井さんがここで生きようと強く思ったのは、この地域で高速道路建設工事が始まってからでした。それまでは、天然林の多様性によって山や森に豊富な食べ物があったためにこの地域に獣害はほとんどなかったにもかかわらず、工事開始後、収穫間近の農産物がイノシシに食べられる出来事が起こりました。水脈が変わり、虫が大量発生したことも。こんなに変わってしまうのか。そのとき今まで頭では知っていたつもりでいたこと、「人の行ったことはどこかで何らかの影響を与える」ことを目の当たりにしたのです。

そして「誰かが行ったことに世界中で誰かが、あるいは何かが影響を受けてしまっている。それに気づかずにいることの気持ち悪さ」を感じました。「いいことも悪いことも自分たちのしたことは自分たちで受け止められる生き方の方が気が楽」。農業未経験だった中井さんが、三島独活農家になるきっかけでした。

さらに2018年、西日本大豪雨、大型台風などの度重なる災害から気候変動による環境の変化を実感。何十年に一度の災害が毎年のように起こる。独活が冬に芽を出す。鶏が卵を産まない。これからも変化していく環境に対応できる作物や生活環境を考えなければ生きていけない…。

 

●未来への不安を希望に変えるために独りで生きなくてもいいコミュニティづくり

そこでコミュニティで生きる中井さんのもう一つの顔がのぞきます。茨木市千提寺で「面白くサバイバルできるコミュニティづくり」を行う活動を始めたのです。そこは一人一人が支え合って生きる場所。

気候変動の中では生きるために必要なものを当たり前に手に入れることが難しい時代になってくる。気づかないうちにとりかえしのつかないことになっていくのでは。そんな危機感の中で、気候変動に適応する種を継ぎ、資源を循環させ、気候変動に適応できる地域づくりをめざそう。そこで仲間たちと古民家を借り、みんなで改装し、ここを拠点に一般社団法人みずとわを立ち上げました。

食糧残渣や間伐材を炭にするエネルギーを活用した電力の自給化をめざし、その炭を土に戻して強い土壌へと改良。また家畜(鶏)の飼料には食品廃棄物、卵を採りながら鶏糞をさらに土へ還元する、作り置きなどをみんなで行い生活をシェアする…など様々な活動を、それぞれの得意分野を提供しあう仲間たちと共に行っています。

これは環境活動というより、豊かに、強く生きるための活動、自分を幸せにする力を育む活動です。もちろん、一人では何もできない。独りでは生きられない。だからこそみんなが幸せに生きられるコミュニティを作るため、彼女は自分の手足を動かすことを大切にしています。

 

●利益ではなく、人と人のつながりや価値の交換で成り立つ仕組みとは

中井さんは信頼資本財団A-KIND塾4期生。ここで彼女は師と仰ぐ熊野英介代表理事(塾長)に出会いました。「熊野さんはビジネスや事業の中で環境問題にも取り組まれていて、私たちが思っている、おかしいなあとかこうなればいいなあということをアクションとして形にされている。財団と仲間たちは師匠であり友人であり同じ思いを持つ同志」と語ります。

中井さんが感じた気持ち悪さを現在の活動に結びつけることができたのも、塾で学んだ成果なのでしょう。信頼資本財団の休眠預金事業に採択され、中井さんがPOサポーターとして担当している和音ねっとの活動は、自身のコミュニティとも共通点があり、学ぶ点も多いといいます。「いろんな人の居場所づくり」の部分はまさにみずとわの理念と重なります。ただこの事業は多くの人の支えになっているにも関わらず、資金の面で不安があります。休眠預金という資金はいつまでも続くものではありません。それでも取り組みを続けていけるように、お金だけに頼らない仕組みづくり、たとえば食品ロスを抱えているところとのマッチングや人脈をつないでノウハウの共有や食料・物資などを含む寄付だけでも回せる仕組みづくりなどをお手伝いできれば、と様々なアイデアをもって和音ねっとに伴走中です。

 

かけがえのない仲間たち(創業メンバー)

PROFILE 中井 優紀(NAKAI Yuki)

1983年生まれ。二児の母。隠れキリシタンの村だったとして有名な大阪府茨木市千提寺への移住をきっかけに、自然と人、すべてはつながり支え合っていることを知り、つながりの良いも悪いも受けとめ、生きていきたいと、夫と共に2015年、千提寺farm.を創業。全国で唯一、江戸時代から続く伝統農法を継承する三島独活(みしまうど)農家になる。三島独活という食をとおして「独りじゃ活きられへんことは愛おしい」ことを伝えている。 2019年の災害をきっかけに、気候変動や社会環境の変化を実感。これから先も、面白く生き抜いていくために、「サバイバルできるまちづくり」を始める。茨木北部の農村集落の見える関係性の中で、「地(知)給地(知)足で持続可能な循環型社会」をつくるために、仲間と共に奮闘中。地域の資源を活用した、食・エネルギー・共育・福祉のあり方を模索している。
(公財)信頼資本財団A-KIND塾4期卒塾。4期塾頭。
(一社)みずとわ代表理事。

 

取材日:2021年8月20日
聞き手:チーム・Dario Kyoto

 

 

チーム・Dario Kyoto
某ローカルラジオ局仲間で組んだユニット。 必要時に応じて招集されるプロジェクトチームであり、企画・取材~原稿アップまでを担うライター集団。
イタリアの優男のような命名は、Radioのアナグラム。
メンバーは、小窪泰子・山田玲子・西田奈都代(デスク)の3名。