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関係先インタビュー

INTERVIEW
信頼資本でつながる人たち
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Home 関係先インタビュー 休眠預金助成先インタビュー記事 -2-

■NPO法人和歌山子どもの虐待防止協会

●同団体プログラムオフィサーサポーター 貫名 茜

休眠預金による助成先と各団体の伴走者(プログラムオフィサーサポーター=POS)にインタビューして作成した記事を掲載しています。

各団体のインタビュー記事はPOSが、POSのインタビュー記事はプロジェクトチームである「チーム・Dario Kyoto」が行いました。

虐待予防の切り札とも言われる「トリプルP」を援用し、
親の心も育む子育て支援団体
NPO法人和歌山子どもの虐待防止協会

NPO法人和歌山子どもの虐待防止協会は、1994年1月和歌山県立医科大学内に事務局を置き、「和歌山被虐待児症候群対策委員会」を設立したことが始まりです。 児童相談所や和歌山県・市の公的機関を中心に、多職種からなる委員会としてスタートしました。具体的には医師、看護師や地域の保健師のほか、教師、教育委員会の方、ソーシャルワーカーや児童福祉司などのメンバーで、虐待事例の収集と検証を行っていました。その後、予防のためにも、できるだけ早い段階から親子との関わりをもてるようにと、子育て支援をする市民の方々に加わっていただき、2000年3月、民間団体として「和歌山子どもの虐待防止協会」を設立、2004年2月特定非営利活動法人として認可を受けました。2021年3月末の正会員は168名、賛助会員は85団体。賛助会員として、和歌山県域の多様な業種の企業が入会しています。

 

柳川先生とトリプルPファシリテーターのみなさん 事務所前で

■加害者の孤立が虐待を生む

お話を聞いた、同法人理事であり活動の中心人物である柳川敏彦先生は小児科医が本職です。1990年頃から、勤務する和歌山県立医科大学小児科で虐待を受けた子どもの治療を経験することが多くなりました。虐待をきっかけに医療とつながる実情に、「なんとかこういう悲惨な状況に陥る前に予防的な関わりができないだろうか。医師だけでなく、子どもと接する多くの方に相談して取り組んでいきたいと思うようになった」というのが、後の団体設立のきっかけとなりました。

柳川先生が多くの事例を通じて学んだことは、「虐待加害者は必ずしもひどい親ではない」ということ。そういった親たちは、日常生活のなかで孤立した状態に置かれていて、様々なストレスが起こっても相談する相手がいなかったために、子どもへの不適切な言動につながることが多いということに気づいた、と言います。

■3つの支援

協会としては3つの大きな活動の柱があります。先ず第1に子育て支援、第2に里親や児童養護施設などの社会的養護支援、そして3つめは、子どもの貧困対策としての学習支援や子ども食堂の活動です。

柳川先生曰く、「私たちはなかでも特に子育て支援に力を入れており、『トリプルP:前向き子育てプログラム』を市町村と協力して、子育て中の保護者の方や、児童養護施設の職員等に提供しています。その他、『子ども虐待防止 オレンジリボン運動』や、毎年11月の虐待防止月間に関連して、『わかやま人権フェスタ(和歌山県)』の参加、市民への虐待防止を呼びかける啓発活動を継続して実施しています」とのこと。虐待を未然に防ぐためには、まず自分たちの活動と存在を知ってもらうことが大切だ、という考え方が根本にあるため、啓発活動にも力を入れています。

■休眠預金助成で実現したいこと

新型コロナウイルス感染症出現は、家族の生活を大きく変えてしまいました。外出制限や経済的困窮が子育てのストレスにつながり、子どもへの暴力、虐待とネグレクトの増加への連鎖となることが報告されており、子育て支援の拡大が急務となっています。「和歌山子どもの虐待防止協会ではコロナ禍にあって、対面での子育て支援活動が大きく制限されるなか、他の方法で子育てのヒントやよりしっかりと学べるプログラムの提供ができないかと考えていたため、まさに今回の助成事業はうってつけでした」とのこと。

具体的には、新型コロナウイルス感染症の対面制限のなか、従来から活動していた「トリプルP:前向き子育てプログラム」がオンライン(eラーニング)でも提供できるという情報をオーストラリアから得たことに端を発します。

「トリプルP」とは、「オーストラリアで開発され、世界25カ国以上で実施されている親向けの子育て支援プログラムであり、子どもの発達を促しつつ、親子のコミュニケーション、子どもの問題行動への対処法など、それぞれの親子に合わせた方法に変えていくための考え方や具体的な子育て技術を学びます。子どもの自尊心を育み、育児を楽しく前向きにしていくようにデザインされています」と案内されており、20年近く前に柳川先生等が日本に導入しました。

今回の事業の中心は、「トリプルPオンライン」英語版の一部を日本語に翻訳し、その他さまざまなシステムと合わせてオンライン(eラーニング)日本語版プログラムを作成し、提供することです。親を含む養育者が、パソコン、タブレット、スマートフォンから自分の空いている時間、好きな時間に、自宅などで何度でも視聴することができるというわけです。

しかし、何より大切なのが、普及活動です。今まで届けきれていなかった層にも、子育ての実情とこのオンラインプログラムのことを知ってもらうために、子育て広場等で保護者に向け、お話会等の開催を予定しています。 

 

■親子共に変化を生み出す「トリプルP」がもたらす子育ての未来

対面によるプログラムでは、親の ①子育てスキルの向上、②子どもへの養育態度(子育てスタイル)の改善、③子育ての自信の向上、を目指しています。子どもについては、①問題行動の減少、②自尊感情の向上など心身の発達促進など、実効性の高いプログラムであることが証明されています。オンラインによる本事業でも同様の効果が期待され、子どもの虐待の減少・予防となり、新型コロナ感染症影響下の子育てに関連した「困っている子ども」の解消に大きく寄与するものであると考えているそうです。

「本年度はコロナ対応緊急事業として、翻訳後まずは年内に和歌山県下で150から200名の養育者の方に無償提供する計画です。養育者とは、子育て中の保護者や児童相談所での一時保護解除により親子再統合に向かう養育者、および一時保護施設職員を含む、すべての子育てに関わる人たちです。そして年度内に参加された方のプログラムに対する感想、意見をいただいて検証し、日本語版プログラムを整備することがゴールと考えています」と、柳川先生は力強く語ります。

続けて、「今回は新型コロナ感染症対策がきっかけですが、ウィズコロナ、アフターコロナのいずれの時期においても、子育て支援は必要です」と柳川先生。虐待予防の最初の入口として「トリプルP」をオーストラリアから日本へ導入、20年近く提供し続けているのは、このプログラムに関わった人たちの変容をみてきたからだといいます。

「和歌山子どもの虐待防止協会」では、養育者に「お子さんがどんなふうに育ってほしいですか」と問います。プログラムを受講すると、養育者自身が相手を気づかい、共感し、コミュニケーションがスムーズになります。つまり、「非認知能力・情動能力」が育まれます。そして自然とその能力が子どもに連鎖されていくのです。

「従来から続けている対面での子育て支援に加えて、新たな子育て支援提供の1つの方法として、この自己学習型のオンラインプログラムを、地域を越えて日本国中に展開していきたいと思っています」と語る柳川先生の眼は、和歌山だけ、現在のみにとどまらず、子育ての未来を展望して、キラキラと輝いていました。

「トリプルP」に関する書籍

 

■インタビューをしたPOS貫名より■

私も三児の親として、いつ虐待をしてしまうかわからない紙一重な状況にいることもあるので、この活動が和歌山から全国に広く普及されていくことを望みます。

 

 

Information

団体名:NPO法人和歌山子どもの虐待防止協会

住 所:和歌山県和歌山市六番丁43番地ハピネス六番丁ビル5F

HPアドレス:http://wspcan.jp/

 

取材日:2021年7月21日
 聞き手:貫名 茜

 

 

告知:NPO法人和歌山子どもの虐待防止協会

2021年度セミナーのご案内

 「ティーントリプルP」をオンライン(ZOOM)で開催します。11-15歳の子どもを持つ保護者対象です。

※和歌山県在住の方が対象です。

※セミナー前後のアンケート回答が必要です。ご協力ください。

 ■お申込方法:タイトルに「ティーンセミナー」と明記のうえ、

①お名前(ふりがな)②ご職業 ③勤務先名、住所 ④連絡先住所、電話(携帯)⑤PCメールアドレスを明記して、wspcan@yahoo.co.jp 和歌山子どもの虐待防止協会

までメール送信ください。

※申込締切2021年9月9日(木)17時

詳細はホームページをご覧ください。  http://wspcan.jp/

同団体プログラムオフィサーサポーター 貫名茜

●軽やかにカジュアルに。女性の生きる力を引き出す、切れ目のない子育て支援を

朗らかな笑顔と、打てばすぐ響く反応の速さ。張り巡らしたアンテナの感度が高い方なんだろうな、というのが第一印象の貫名茜さん。

貫名さんは、人材会社キャリア・ブレスユーの正社員でありながら、NPO法人ホッピングの理事長、そしてNPOの中間支援を行うわかやまNPOセンターの理事も兼務するという、スーパーお母さんです。

今回は和歌山市内の商店街一角にある事務所でお話を伺いました。

 

●ないなら自分でつくる、からスタートしたホッピング

ホッピングは子育て支援と女性の就労支援、再就職支援、保活支援を行うNPOです。2011年に個人事業として立ち上げ、2015年にNPO法人化しました。

「私は和歌山生まれの和歌山育ちです。結婚して子どもを産んだとき、和歌山の子育て支援って何かが足りひん、と思ったんですよね」と言う貫名さん。10年前の和歌山の子育て環境は、保守的な考えもまだ根強く、「子ども産んだら3歳くらいまでは自宅で見ちゃれや」、という空気があったといいます。「生きづらいなぁ」と感じた貫名さん、周りのお母さんに聞いてみると、スキルもあるのに、母になった途端にそれが消えてしまう。すごくもったいない、と感じました。

何とかしたい、と、まず「親子カフェ」からスタート。親子で気軽にランチが楽しめるカフェを立ち上げ、お母さんたちのハンドメイド品を置く雑貨スペースもつくりました。さらに和歌山の地場の食べ物を取り入れ、地域とつながろう!と、和歌山県産の新生姜に着目し、ママたちで商品開発して、「ママカフェ&生姜カフェ」にパワーアップ。

「こんな場所がほしかった」と、ホッピングの会員数は爆発的に増え、その数およそ800家族。みんなが望みながら行動に移せなかった、ママが楽しめる「親子の居場所」を、貫名さんは実現させたのでした。

 

●ニーズを拾い、スピード感をもって事業化するという強み

ホッピングのスタッフ13名は全員お母さん。保育園児から小学生、そして大学生まで、あらゆる世代のお子さんたちのお母さんが揃っています。この13名で、実に多くの事業を手掛けています。

まず、子育てひろばの運営。和歌山市から委託を受け、常設の「ドレミひろば」として週5日開けています。ここの特色は、隣が保健センターなので、緊密な連携をできること。他に、北部エリアのコミュニティセンターを借りた月1回のひろばも運営しています。

おもしろいのが「ホッピング登録ママ講師」という制度。実は、趣味特技資格を持っているお母さんは多い。彼女たちを「ママ講師®」として登録し、なんとプロフィールブックまでつくっています。初心者ママには「チャレンジ塾」が用意されています。1年間の活動計画を立ててもらい、その間に講師デビューをしていただくというもの。キャリアデザインもしつつ、起業のノウハウも得ながら、1年プランで進めます。

「次に考えているのが『認定ママ講師制度』です」と語る貫名さん、「起業女子難民がたくさんいるので、なんとかしたい」という想いを胸に、秋スタートに向けて急ピッチでテキストを作成中だそうです。

「ひろばをやっていると、さまざまな声が聴こえてきます。それらを丁寧に拾い、事業化する。ホッピングでは、スタートした2011年当時からずっと利用者の統計をとっています。たとえば、2015年当時は育休中のお母さんの利用は20%ほど。それが17年、18年で40%まで上がった。ここから、育休中のお母さんのニーズがあるぞと睨み、去年『育休カフェ』を実施しました。これは、育休中のお母さんたちが、会社には相談できないようなことを自由に尋ねたり、教えてもらえる場で、毎月1回開催しています」と言う貫名さん、それだけでなく、2年に1回アンケートもとっています。利用者も含め、ウェブ上で一般の方々を対象とし、結果を集計・分析し、これからどういう事業が必要になるかを考え、実行に移していくのです。

 

●休眠預金事業に感じる希望とこれからの展望

今回の休眠預金事業のPOSを務めるようになったきっかけは、信頼資本財団フェローを務める知り合いからの紹介でした。

「和歌山子どもの虐待防止協会さんとホッピングは、いままでつながっていなかったのが不思議なくらい」だとか。今回の休眠預金事業はそういう意味でいいきっかけになったと感じています。「課題は共有することが多いので、事業が終わってからもいい関係でいられたら」と言うとおり、2団体が今後連携して一つの事業に取り組む未来も、そう遠くないかもしれません。

社会の変化のスピードがとても速いなか、出産を経たお母さんは浦島太郎になりがちです。その期間を活き活きと子育てして過ごしてほしい、という願いがホッピングの活動の基盤にあります。

「お母さんたちは決して“支援される側”ではなく、本来生きる力を持っているひとたちです」と力強く述べる貫名さん。スピード感を大切に、その時々のお母さんたちのニーズをしっかり感じながら、変幻自在にカッコよく事業をつくっていく、それがホッピングらしいあり方なのでしょう。「私たちを“弱者”にしないでほしい」という一言に、同じ母親としても激しく共感しました。

いかにカジュアルに軽やかに、日常に取り入れて事業を広めていけるか。ホッピングのチャレンジは続きます。

 

毎回大人気「ドレミひろば」の様子(2019年12月)

PROFILE 貫名 茜(NUKINA Akane)

保育士と幼稚園教員の資格を持ちつつ、一般就職をしてカーディーラーの会社で4年間勤務。その後結婚・出産を機に仕事を辞めたものの、現状に疑問を抱き、2011年ホッピング設立、2015年にNPO法人化。「親子カフェ」はじめ、和歌山市でいち早くeラーニングを学べるコワーキングスペースをカフェに併設するなど、次々と新規事業を立ち上げ。ホッピングは2019年度近畿ろうきんのNPOアワード大賞にも輝く。3児の母。

 

取材日:2021年7月26日

 聞き手:チーム・Dario Kyoto

 

 

チーム・Dario Kyoto
某ローカルラジオ局仲間で組んだユニット。 必要時に応じて招集されるプロジェクトチームであり、企画・取材~原稿アップまでを担うライター集団。
イタリアの優男のような命名は、Radioのアナグラム。
メンバーは、小窪泰子・山田玲子・西田奈都代(デスク)の3名。