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<卒塾生同士だから聞ける・話せるインタビュー>

岡本 麻友子さん:A-KIND塾6期(2020年度)卒塾生

インタビュアー:A-KIND塾5期卒塾生・同期塾頭 G5designs大槻彦吾さん

 

今回は、天理市の高原地域周辺で、近年全国的に広がっている自然保育(森のようちえんウィズ・ナチュラ)を中心としたコミュニティ事業を展開している合同会社SOULS代表岡本麻友子さん(A-KIND塾6期生)からお話を聞きました。

森のようちえんウィズ・ナチュラという自然保育団体を基軸にした、子育て、教育、地域づくり全般の活動をしています。具体的には、3歳から5歳を対象にした森のようちえん、未就園児の自然育児、親子の関わり合いを仲間とともに学ぶサークル、親子が安心してご飯が食べられるコミュニティカフェの運営、そして地域の方たちとの交流の場として天理市高原地域という場所を周知させるためのてんり高原マルシェ(月1回)の運営です。子どももお母さんも一人ひとりが、その人らしく幸せな人生を送れるサポートですね。子どもとお母さんを中心に、私たちがそんな場所をつくれるんだということを示していきたいと思っています。

 

ー森のようちえんだけではなく、親子を基軸とした活動を拡大されてきた原点についてお聞きしました。

 

■森のようちえんを始めるきっかけ

私立の保育園の先生をしていました。自分が4歳の時に通っていた幼稚園の担任の先生がとても好きで、その人に憧れて、この人のようになりたいと思って保育園の先生になりました。4歳の夢をかなえて保育園に勤めたのですが、理想と現実を知ってしまった。型にはめるような、ルールに沿って導かなければいけないというところは、私がやりたかったことではないと5年で退職しました。

退職してすぐの頃、テレビで長野県の森のようちえんを紹介した数分間の映像を見て、衝撃を受けました。私がやりたかった子どもとの関わりってこういうことなんじゃないかなとピンと来たのですが、もう教育業界に戻らないと決めていたので、あぁ残念やな、でも気になるなぁと感じていました。
保育園の後は美容業界に入りました。するとお客さんはほぼ女性で、保育園を辞めても子育ての悩みを聴く機会が増えたんです。私自身、母との関係があまりよくなかったのもあって、自信のなさや新しいことにチャレンジできないことなど、世の中に対してスネてるというか、人も世の中も信用できないというような生きづらさを抱えていました。お客さんの悩みを聴いていく中で、お母さんの悩みは子どもに対する悩みじゃなくて、お母さん自身の悩みなんじゃないかな、と感じました。私に置き換えて考えたときに、私の問題というよりも母親の問題が原因だったんじゃないかなと気づいたんですよね。私は子どものためにと思ってやってきたけど、実は子どもはそのままでよくて、サポートが必要なのはお母さんの方だったと気づいて、美容の仕事の傍ら、子育て支援系の活動を始めました。そうした中でも折に触れて、数分間の森のようちえんの子どもたちの姿を思い出していました。ずっと気になっている理由が分からなくて、これは確かめるしかないと思って森のようちえんを自分で始めました。

 

ーサポートを必要とするお母さんの悩みに気がついた岡本さん。僅か数分間のテレビの映像をずっと忘れられなかったことがきっかけとなり、森のようちえんを始めた岡本さんの行動力には驚きますが、この行動は、さらに自らの疑問を生んでいく結果になります。

 

仕事もしてたので月に2回くらいのペースでイベント型の森のようちえんを始めて、4年くらい続けました。でもなんで森のようちえんが気になっているのか、やってもやっても本質的なことが全然分からなくって迷宮入り。続けていたら分かるだろうと思っていた頃に、ちょうど私自身が妊娠したんですね。そこで、近所の幼稚園か保育園を探したのですが、預けたいと思うところが見つからなかった。友人も同じタイミングで探していたけど見つからず、お互いに元保育士ということもあって、じゃ自分たちでやってみようかということで森のようちえんを日常型にしました。すると私も預けたいという人たちが結構いて、ニーズがあることが分かりました。あとは私たちが覚悟するだけだと、全国の有名な森のようちえんに視察や研修に行きました。

そこで初めて、私が森のようちえんについて、気になっていたのはこれだったのかということが分かりました。イベント型だと変化が見えないけれど、日常型だと子どもたちやお母さんが日に日に変化していく姿が見られたんです。人が成長し変化する姿に、私は魅かれるんやなと気づきました。

こんな経緯ですから、わが子をきっかけに森のようちえんをやることになったとも言えますね。娘が生まれてなかったらやっていなかったかもしれません。その後、森のようちえんウィズ・ナチュラを社会化させるためには法人格が必要ということで、2019年に合同会社SOULSを立ち上げました。

火起こしにチャレンジしている友達を見守り、応援している年少さんたち。
杉葉にマッチで火をつけ、火を育てることは年長さんが教えてくれます。

■日常型の森のようちえんでの発見と課題

ーずっと分からないという思いを抱えながら4年間もイベント型森のようちえんを続けた岡本さん。ご自身の出産をきっかけに森のようちえんを日常型にすることで、親子が日々の中で成長や変化する姿を見ることができると同時に、様々なおかしさにも気づくことになったそうです。

 

親子って毎日、顔を合わせているので、近すぎるからこそ分からないことがあって、悩んでしまうこともあります。お母さんは特に自分の悩みを出せる場所が、あるようでないので、自分で抱えてしまう。公共の相談窓口に行っても毎回、同じ人と話せるわけじゃないので、逆に相談相手に気を遣って疲弊して帰ってくるような孤独な子育て経験をしている人が多いことに気がつきました。

子育てって喜びも幸せもあるはずなのに、苦しいとか辛いとかネガティブなものとして捉えている人が多い。子育てと幼児教育が別物として扱われて、家庭保育と家庭外での日常保育がつながってないから子どももお母さんも孤独になってしまう。保育士も預かっている時間だけの関係というのが普通と思っていましたけど、もしかしたらそれはおかしいんじゃないのかなって。これが、森のようちえんになると、お母さんや保育士のような大人も子どもも共に成長することができるようになります。

 

ー日常型にすることで本質的なことに気がつき、走り始めた岡本さんも最初からうまくいくことだけではなかったと語ります。

 

私の子が1期生を想定して準備を始めたのですが、実際には1年早くスタートすることになりました。森のようちえんの運営も保育も初めてだし、手探り状態で始めたので毎日、対話しながらでした。認可園を断って入園する保護者さんなので、強い覚悟と熱い想いを持った方が多かったんですね。あれしてほしいこれやってみたいという要望も増えていきました。みんなで考えて、保護者さんや子どもたちにとって必要なものは取り入れるということをやってみたんですけど、2年目くらいから森のようちえんをみんなの理想ではなく、自分の理想に近づけたいという保護者さんが出てきたんですね。
子どもたちを中心にしていると、保護者さんにとっても運営側にとっても「子どもたちにとって今これが必要だな」というものってポンと出てきて、それが実現化するんです。でもそうした変化があると、昨日までこう言ってたのに、今日はこれをするんですかという反応が出てきます。もっと早めに言ってほしかったという感じですね。今いる子どもの保護者さんたちは、それが普通なので全然問題がなくなっているんですけど、当時は初めての体験ばかりですから、双方に戸惑いがあったのだと思います。ただ、大人の都合に合わせることをやってしまったら、何のために森のようちえんをやってるのか分からなくなってしまうわけで、難しい時期でした。考え方や価値観のズレがちょっとずつ出てきて、私も言いにくいし、スタッフもプレッシャーを感じるようになって、お互いに気を遣う関係になってしまった。間に挟まれている子どもたちに申し訳ないし、質の高い保育を目的に始めたはずなのに現状はどうだと。質の高い保育のためには、保育士の人間力、そしてそれを支えてくれる保護者さんの人間力を高めていかなければいけないということが伝わってないなと感じて。こんなんやったら何のために始めたんやろうと思い、休園にして緊急ミーティングを開きました。保護者さんからすると休園にするって何事やと。子どもはどうするのってなったんですけど、そういうことを言っている場合じゃないくらい問題がありますって説明して。3ヶ月くらい悩んで、これが続くのであれば、子どもに申し訳ないし、全国の森のようちえんにも申し訳ないし、保育の質も悪くなると思って止めるか止めないかというところまで考えました。

 

ー2年目に出てきた森のようちえんを止めるかどうかの瀬戸際の問題。これを岡本さんはどのように乗り越えていったのでしょうか。

 

それまでも本音を話す腹割会という会はあったのですが、なかなか保護者さんから本音が出なかったんです。でも緊急ミーティングをきっかけに、私は違うことを思ってたけどみんなに合わせてしまっていたというようなことがぽろぽろ出てきました。他人の目を気にしていた、自分のことを無視してきたと。そこで、この場をどうやったらみんなにとって居心地が良くて、持続可能にできるかを、みんなで考える会を月1回設けて、半年後くらいにやっと打ち解け合う状態になりました。保護者さんたちが、私は今どう感じているんだろうという、自分の内側に意識を向けられるようになっていきました。私も必死でしたね。

2021年度の入園式。セレモニーは保護者さんの心のこもった花や飾りでお祝いします。

ー地道に保護者さんたちとの対話を重ねて、半年かけてお互いが本音で話す関係性まで修復した森のようちえんウィズ・ナチュラ。変化は他にもあったのでしょうか。

 

それまでは私が代表として保護者さん対応もしていたのですが、そうすると意識がそちらばかりに向いてしまって森のようちえんウィズ・ナチュラを社会化しようという動きが滞ってしまう。その状況をみんなに話しました。私の親友が保育を全般にやってくれているんですが、保護者さん対応も彼女が担ってくれるようになりました。彼女は私よりもマイルドなタイプなので、うんうんと保護者さんの話を聴いて必要があれば諭すという対応をしてくれる。スタッフ内の意識が変わり、チームも彼女も成長して、他のスタッフも彼女のやっていることを代わりにやってくれたりしてスタッフ全体の空気が変わり、スタッフの空気が変わると保護者さんの空気も変わっていきました。

 

ー存続に関わるような状況から、スタッフの空気も変わり役割分担やチーム力に変化が起きたようです。そのことが保護者の方々の空気が変わるきっかけになったと回想する岡本さん。さらに森のようちえんウィズ・ナチュラを運営する喜びについて語ってくれました。

 

■コミュニティとしての森のようちえんウィズ・ナチュラ

うちの子が卒園した後も、私たち親子は森のようちえんウィズ・ナチュラに支えられていると感じています。保育施設から始めたんですが、コミュニティになっているなと。私だけじゃなく、ここが居場所と感じてくれる人が増えている。2020年1月に本を出版したのですが、コロナ禍の影響で、全国を出版記念トークイベントで回る予定がほとんどなくなってしまいました。するとスタッフが在園児ばかりか卒園児の保護者さんにも声をかけてくれてパーティーを開いてくれたんですね。毎日のように、みんなとは会っているのですが、あらためて参加者全員が私と初めて会ってからのことを話してくれました。こうしてみんなから話を聴く機会は、なかなかないと思うんですけど、本当にこの場所、森のようちえんウィズ・ナチュラをつくってよかったなって思った瞬間でした。

 

ーそんな岡本さんはどのようにしてA-KIND塾6期生となったのでしょうか。

 

■A-KIND塾との出会いと発展

A-KIND塾を教えてくれたのは、箕面こどもの森学園校長の藤田美保さん(A-KIND塾2期塾頭)です。美保さんは、私の雲の上の憧れの存在です。幼稚園でもいっぱいいっぱいなのに小学校をつくってしまう、中学校をつくってしまうってすごいパワーだなって、ずっと思っていました。学校を地域コミュニティにするということも参考にさせてもらいました。美保さんのことを探っていたときに、塾長の熊野さんから多大な影響を受けたと教えてもらいました。私はアミタさんのことは知っていたんですけど、それまではその会長のことも信頼資本財団のことも知りませんでした。美保さんがそれだけ言うんやったら、面白そうやなって思って、応募しました。

 

ー参加してみての一番印象的なことをお聞きすると。

 

1講目ですね。もうワクワクして、メチャクチャ面白いと。こういうのを求めてた、見つけた!って感覚でしたね。難しい話だけど、分からなそうで分かるなって。当時、コロナ禍に入ったばかりで、私も森のようちえんも、これからどうしていくことになるんやろうって漠然と先が見えない状態だったのですが、そこから救われた感覚がありました。

森のようちえんをやってきて、毎年、変化していく自分を感じながら過ごしてきてたけど、そんなに不安はなかったんです。自分たちの目の前の課題にその時その時で立ち向かっていけば前進できると思っていました。でもコロナは周りも大きく反応しているし、分からないモノに対する不安で、私も波にのまれそうになっていました。
熊野塾長の講義で、パンデミックは初めてのことではなくて、過去にたくさんヒントがあると言われたのが最初の衝撃でした。私は未来ばかり見てたから、過去から学ぼうとする姿勢が全然なかった。塾長も未来は分からないと思うんですけど、先の見えない未来を切り開いていく術を知ってる人やな、そんな人にこのタイミングで出会えた自分は、大丈夫やなと思いましたね。

 

ーA-KIND塾との出会いから岡本さんの信頼資本財団との関わりは、拡大しています。

 

2021年5月から信頼資本財団の休眠預金助成事業の実行団体となりました。全然、知らない団体からの助成ではなくて、関係性があるところからの助成というのは大きいです。塾長にも、ようやってるなと思ってもらえるように助成事業に向き合ってきました。今では信頼資本という関係性は、その言葉を知る前から私の中でずっと大切にしてきたことやなと思っています。大切にしてきたことを塾長に言語化してもらったので、仲間たちにも拡げていきたいと思い、コミュニティが拡がっていく、深まっていくというのを体験している最中です。A-KIND塾や塾長に会えてなかったら、それが意識化されていなかったというか、何となくやれてるかもしれないけど、ふわふわして地に足をつけてなかったんじゃないかなと思います。
A-KIND未来設計実践塾7期には、スタッフも参加しました。その結果、私以外のスタッフが、一人の人間として社会に貢献するんだという意識になった影響は大きいですね。そのスタッフが保護者の皆さんにもA-KIND塾での学びをアウトプットしていたので、少しずつ私たちが共感していることが浸透しています。

 

ー森のようちえんウィズ・ナチュラの、今後について教えてくれました。

 

森のようちえんウィズ・ナチュラを増やすとか大きくするということはあまり考えていませんが、自然保育のエッセンスを一般の幼稚園・保育園にも届けられるような存在にはなりたいですね。自分のありのままを伸ばし、そのまま大きくなっていくような子どもたちが認可園にも増えたらいいなと思っています。

合同会社SOULSとしては、関わる一人ひとりが幸せかどうか。誰一人犠牲にならず、やりたい時にチャレンジできるようなコミュニティをつくって拡げていきたい。今は卒園児のお母さんの起業支援も行っています。お母さん一人ひとりをしっかり社会起業家として社会に送り出して、子どもの理想になるような人たちを育んでいきたいと思っています。

 

 

■インタビューをした大槻より■

保育士を目指したきっかけとなった担任の先生の何に影響を受けたのですかとお聞きしたところ、笑顔と答えられたのが非常に印象的でした。手洗い場で目が合った先生がしてくれた、にっこーと笑ってくれるその笑顔が今でも忘れられないと語る岡本さん。ずっと脳裏に焼き付いていた数分間の森のようちえんの映像。そこから色々なことがつながり、本当の意味で親子が学び合うコミュニティに発展しています。岡本さんの笑顔が向けられた人たちの未来が楽しみになるようなインタビューでした。

PROFILE 岡本 麻友子(OKAMOTO Mayuko)

森のようちえんウィズ・ナチュラを2010年に立ち上げ、大人も子どもも育ち合う場づくりをスタート。親子向けの週末の自然体験イベントだった活動から、娘が生まれたのをきっかけに預かり型の保育事業に転換。NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟理事。2019年合同会社SOULSを設立し、自然保育事業の他、未就園児の親子向けの子育て支援事業やコミュニティカフェやマルシェ運営などの地域づくり、母親の就労支援や他の森のようちえんの開園サポートなどの人づくりにも力を注いでいる。 奈良県出身、一児の母。

(公財)信頼資本財団A-KIND塾6期卒塾。6期副塾頭。

 

 

(2021年12月インタビュー)