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2017.04.24

溶ける時代

この4月に、トルコで大統領の権限を大幅に広げる憲法改正を問う国民投票が実施され、僅差ながら賛成派の勝利に終わり物議を醸しているが、私は投票日前の混乱にも興味を持った。
オランダに住む二重国籍のトルコ人に投票を呼びかけるため、トルコの外相がオランダに入国しようとしたが、選挙に加担するつもりはないと同国政府に拒否された件だ。
トルコの外相が躍起になったほど同国からオランダに移住した人々の数は多く、40~50万人と言われている。
2014年のEU圏内居住者のうち圏外で出生した者の数は3300万人で、EU加盟28カ国の総人口(5億人強)の7%を占める。ドイツ、フランス、イギリス諸国の移民の割合は10%以上になっている。
人々は、合法的に、あるいは非合法的に国境を超えて流れている。
 
流動化の途上、アメリカでは、ヒスパニックが増え白人が少数派になり、プロテスタントよりもカトリックが増えていく。
時代の流れと共に、インドの人口が中国を超え、中国が世界一の老齢大国になり、広大なロシアの人口が1億人を切っていく。
 
「国」における国民性やアイデンティティが、人々の流動化や人口の増減によって、徐々に変わっていくのは止めようがない。
企業等組織の文化も徐々に変わっていくはずだ。
家族制度の在り様も徐々に変わっていくだろう。
個人も周辺からの情報によって生き方を決めていた時代から、インターネットによってフィルターの少ない遠くの情報を容易に得て生きる方向へと変わっていくだろう。
 
流動化することで混じり合い、価値観が変わっていく。
この価値観の変化が、微粒子のブラウン運動のように徐々に状況を変えていくだろう。
 
20世紀の構造が溶けていく。
 
冷戦体制が終わりを告げて、もうすぐ30年が経つ。更に30年先の2050年頃には、20世紀の常識の多くが溶けてしまっているだろう。
物資的な飢餓貧困を追放する人類の夢を達成したはずの地域で精神的な飢餓が増大している。人類が不幸になっている原因の本質を知り、新しい価値観に向かっていく時代が来ていると繰り返し述べてきた。
 
元より、地球上に存在する社会は均質ではない。
アマゾンやニューギニアやアフリカには、日本の縄文時代のような狩猟採取社会があり、東南アジアの各地には、弥生時代のような漁労稲作社会があり、中国やブラジルやインドには日本がかつて経験した高度成長期や大量消費社会がある。
中世の王国や実質的には部族社会の側面を残しながら、近代が築いた市民社会の民主主義や資本主義そして法制度を取り入れ、国民主権を維持管理している国家、社会もある。
そして、日本は、課題先進国と呼ばれるように、「成熟社会」と呼ばれる欧米やアジアの一部と歩みを共にする地域のひとつであり、その先頭をひた走りつつ歴史を刻んでいる。
 
これら不連続で不確実で不安定な社会にあっても、そのおそらく全てで共感を得る「物質的な飢餓貧困の追放による幸福の獲得」を現実のものとするため、20世紀は社会実験の世紀になった。
経済システムにおいては、資本主義と社会主義という形でそれは進んだ。
 
経済学者のシュンペーターは、「資本主義は、成功すればするほど失敗する」という言葉を遺している。資本主義は社会の変化を望むが、その中で成功した資本家は既得権益者となり変化を好まなくなる。その結果、社会は停滞し社会主義化する。すなわち、資本主義は失敗している。
 
では、社会主義はどうか。中国は計画経済をダイナミックに進め、社会主義を資本主義化することで発展している。しかし、公共投資を主とする計画経済市場は、権力闘争による権限競争を激化させ、人民の平等社会は成立しなくなった。社会主義も成功すればするほど失敗している。
 
このように20世紀における社会実験は、物質的な飢餓貧困を追放できるかのように見えたが、経済的な社会構造は失敗の状態にある。これに伴って20世紀の価値観が溶け出し、新しい価値観に変容しようとしている。
 
地球上で人類が生き続けていくための環境制限が顕在化した今、資源やエネルギーや食料や水の奪い合いをする適者生存の弱肉強食時代の新しい帝国主義時代が来るのか。資源やエネルギーや食料や水を管理分配する管理社会の時代が来るのか。
 
現在起きている事象は、30年以内に物質文明の価値観を溶かし、変容させ、新しい価値観を構築する予兆のような事象だと思っている。新たな価値観の予兆の時代を生きている。
 
2017年春、変容への旋風が吹き荒れる社会に、実践をもって更に深く関与していくことを決意する。
 
 
2017年4月
信頼資本財団 理事長 熊野英介