
関係性を育み、
より豊かな社会へ向かうために
行政ができることは何か
より豊かな社会へ向かうために
行政ができることは何か
京都市職員で、当財団行政職員向け社会事業塾「未来設計実践塾」に、2018年度2期生として参塾した本田耕志さんにお話を伺いました
2003年に京都市役所に入職。障害福祉の部署で、ユニバーサルデザインや障害者差別解消法を担当していた時に「未来設計実践塾」を知ったといいます。
「施策を推進するに当たっては、行政だけでなく、市民、事業者など多様な主体が連携する必要性を感じていました。ソーシャルビジネスにも興味があったので、そういった事業をされている方と学び合い、視野を拡げたいという思いで参加しました。塾には京都市職員も多数参加していて、部署を跨いだ交流や、社会をよくしたいという同じ志をもつ塾生と議論を深めることは、いい経験になりました。大きな方向性を示し、事業をしておられる方々の後押しをしていくという行政の役割を、あらためて教わりました。」
本田さんは、2020年度から京都市人権文化推進計画の重要課題の一つとして挙げられていた「LGBT等の性的少数者の人権尊重」を促進する施策の担当に。性の多様性を認め合い、自分らしく、自由に、自分の幸せを選択できる社会を目指し東奔西走されました。
同年9月、京都市は「パートナーシップ宣誓制度」※を開始します。本田さんは、この制度の導入が、性の多様性の理解と共感を広め、LGBTQ当事者の困りごとや生きづらさの解消に少しずつ繋がっていると感じています。
※京都市パートナーシップ宣誓制度
双方またはいずれか一方が性的少数者である二人が、互いを人生のパートナーとして、日常生活において相互に協力し合うことを、市長に宣誓し、市長が受領書を交付する。法律上の効果はないが、病院における病状説明や、賃貸住宅への入居拒否などの生活の中に抱える困りごとの解消や周囲の理解を促進する。2023年度末時点で、宣誓組数は150組を超えた。

「仕事ではいつも、担当している施策の対象となる方の声を聴くことを大切にしてきました。もとより京都市役所というところは『現場に足を運ぶ』ことを重んじる風潮があり、私も常に対象となる団体や活動にアンテナを張っています」と話す業務の中で出会った団体の1つが「カラフル」※でした。
※カラフル
カラフルは「京都をもっとカラフルに」をテーマに、可視化・共存・発信の3つを軸にしながら、「カラフル」にありのままで過ごせる社会づくりを目指して活動しているコミュニティ団体です。まずは“その人を知る”ことを大事に、LGBTQ₊もそうでない人も、安心してつながり、LGBTQ₊への理解を深めるきっかけづくりをしています。(「カラフル」ウェブサイトより)
本田さんが、カラフルの活動に接してまず感じたことは、メンバーや参加者が、この場をすごく楽しんでいること。だからこそ、セクシャリティを理由に選択肢が狭められる社会制度・構造をまず変えていかなければと思ったそうです。
自分が当事者であるとか、当事者ではないとか関係なく、そこにいる人たちのスタンスがとにかく居心地よく、ただ一人の人として出会い、お互いを認められるその場の安心感から、部署が異動となった現在も、一市民として「カラフル」のメンバーと一緒に活動に参加しています。
セクシャリティは誰もが持っているもの。目の前の人と知り合うことからLGBTQ₊であったり、セクシャリティの理解が自然と深まり、視野が拡がっていくといいなと考えているそうです。
活動しているなかで嬉しかったことがありました。
「月1回、多様な参加者と鴨川沿いのごみ拾いを行いながら、対話(雑談)ベースの居場所づくりをしています。ゴミ拾い後に集合写真を撮っていて、それまで写真NGだった参加者から今日は写りますと話があったんですよ。どうしてか聞いてみると『ここに居ないことになるのは嫌だなって思って』と話してくれて、それは本当に嬉しかったですね。」

現在の部署で、本田さんは地域住民の複合・複雑化した支援ニーズに対応する重層的支援体制整備事業を担当しています。
「行政の制度のはざまで埋もれている人をなくすことが目的です。住民の困りごとが、行政・地域・支援機関のどこかにつながるセーフティネットを整えて、地域内で福祉的課題を解決していける社会を、地域の実情に通じる区役所と関係機関、そして住民が主体となり、市がバックアップする形で目指しています。」
人に関する施策・事業を担当してきた本田さんは、入職当初からずっと「人権が守られる社会」を想い続けています。
「その人らしく生きる社会へ向けて、課題がクリアになっていくのは、やりがいを感じます。」

市職員として人の困りごとに向き合い続けている本田さんの趣味は登山だそうです。
休日は山へ登り、山荘で居合わせた方と語らいを楽しんでいます。山に入ると、どれだけ自然が大切であるかがわかると話します。
「山は歩いてよい道と、ここからは踏み入ってはならない場所がはっきりと感じられる。そこが好きですね。入らせていただいてる感覚というか、山の壮大さや寛容さを感じます。頂上で食べるカップラーメンも最高においしいです!」
子どもの頃から家族で登山をしていて、ある時、父親が登山道から外れたところに落ちていたゴミを拾ったことがありました。「拾っていいんだ(登山道から外れたところに入っていいんだ)」と思ったことが強く記憶に残っているそうです。
「自分の感覚を信じて、自分が良いと思えば行動したらいいんだと思いました。」
本田さんは「山は外から見たら壮大で、中に入ると神秘的」と続けます。
この言葉は、本田さんの人や社会との関わり方に重なるように思います。
そして、相手に敬意をはらいながら、どこまで踏み込めるか。関係性を育み、より豊かな社会へ向かうために行政ができることは何か。
行政の役割と個人の幸せを考え続けることが、本田さんの「やりがい」なのだと思いました。
PROFILE 本田 耕志(HONDA KOJI)
1980年京都生まれ。京都市役所勤務。LGBTQ施策担当時に、性の多様性の理解促進や自分らしく過ごせるコミュニティづくりに取り組んでいる団体、企業、大学等研究機関、行政等が連携して、施策を推進していく「市民ぐるみ「多様な性の在り方が尊重される京都」推進ネットワーク」の設立に尽力。同ネットワークが企画した多様性がテーマの絵本「なにでもないもん(※)」が、株式会社岩崎書店から2025年1月20日に発売。
※自らのセクシュアリティをめぐる生きづらさと向き合い、エッセイや様々なメディアでその思いを発信してきた少年アヤさんが、「なにでもない」自分を失い、苦しい、孤独な気持ちを抱える子どもたちに届けるために書いた物語。
https://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000336514.html