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関係先インタビュー

INTERVIEW
信頼資本でつながる人たち
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Home 関係先インタビュー 休眠預金助成先インタビュー記事 -10-

■一般社団法人くじら雲
●同団体プログラムオフィサーサポーター 西岡 真由美

 

休眠預金による助成先と各団体の伴走者(プログラムオフィサーサポーター=POS)にインタビューして作成した記事を掲載しています。
各団体のインタビュー記事はPOSが、POSのインタビュー記事はプロジェクトチームである「チーム・Dario Kyoto」が行いました。

「福祉」じゃなく「場づくりがしたい!」-スタッフの声から生まれた幾重もの居場所事業
一般社団法人くじら雲

一般社団法人くじら雲は、放課後等デイサービス、B型就労支援事業所など複数の事業を展開しています。他にも不登校、発達障害など困りごとを抱えた子どもたちとその親御さんが過ごしやすく、相談し合える居場所を複数運営しています。今回「新型コロナウイルス対応緊急支援助成金」の助成先に採択されたことで、新規事業もスタート。コロナ禍でさらに孤立を深める人たちのために尽力しています。

理事長の片桐直哉さん、理事の片岡珠希さん、スタッフの飯田愛子さんにお話を伺いました。

くじら雲メンバー。前列向かって右端が片岡さん、1人置いて理事長の片桐さん(眼鏡の男性は外部講師)

 

■行政の仕組みにとらわれない多世代の困りごとに寄り添う

(一社)くじら雲は立場や世代の異なる多様な人たちが関わり、つながることのできる多種多様な場づくりを行うことで、地域に暮らす一人ひとりが共に支え合うことのできる社会の実現をめざしている団体です。

京都市北区、大徳寺からすぐの新大宮商店街を中心に複数の活動拠点があります。そのうちのひとつ、「コミュニティカフェ 新大宮」は居場所の運営事務所ですが、普段はカフェとして近隣住民の憩いの場となっています。改装した建物の1階は白と明るい木調、小上がりのフリースペースは裸足が気持ちよいフローリングになっています。トイレは広々とおむつ交換もできるようベッドを備えています。2階は今回の助成金を活用して少し古めの和室を居心地の良いスペースへとリフォームしました。

構成メンバーは、福祉やまちづくりの専門職員、福祉や場づくりを学ぶ学生、地域の住民など約20人。2010年5月に一般社団法人くじら雲の前身「新大宮 みんなの基地」がスタート。2016年2月に一般社団法人くじら雲設立、翌17年3月には放課後等デイサービス「そらいろチルドレン」、2019年8月相談支援事業所「くじら雲」、2021年5月就労継続支援B型事業所「ちょう結び」、と事業を立ち上げてきました。

また、今回の休眠預金助成を受け、新規事業をスタートさせました。「るくらす」、「イロトリドリ」、「そらな」、「ことなば」、「憩居(いこい)空間」などいずれもユニークなネーミングの各事業は、新型コロナウイルス感染拡大により、普段以上に孤立を深めた方たちにとって救いの場になっています。

「るくらす」発起人でもある理事の片岡さんは社会福祉士です。ホームレス支援7年、グループホーム管理2年など福祉業界一筋。訪問事業が大好きと言い、「見ず知らずの私を家に上げてくれるというのはすごいこと。信頼関係の始まりだと思うんです。それが嬉しくて!」とこれまでの訪問事業を振り返ります。続けて、「『るくらす』では赤ちゃん連れの若いママからお年寄りまで全世代の困りごとに寄り添いたい。人のお力を借りながらも清々しく上手に甘えてほしい」と語ります。ご自身も子育て中であり、どこからそのパワーが湧いてくるのかと感心します。

「イロトリドリ」では学校に行きづらい子どもたちが思い思いの時間を自由に過ごします。不登校の子どもたちは学校に行かないことに対して罪悪感があります。そのため家にいても落ち着かない子どもが多いので、否定されずにあるがままの自分を受け入れてくれる居場所は重要です。必要に応じて学校と連携を取ってくれるので、親御さんにとっても安心です。

「そらな」は不登校や障害に関係ない、未就園児から高校生までの子どもと親御さんの居場所です。場所を解放して好きなように過ごしてもらいます。親御さん同士が悩みを共有しながらおしゃべりすることで気分転換もできると言います。「そらな」はスペイン語で「ひだまり」。ぽかぽかと温かい居場所であってほしい、という気持ちが伝わります。

「こどもとおとなの居場所」から名付けた「ことなば」は障害のある子どもを育てる親御さん同士が日ごろ悩んでいることや感じていることを話し合う場。子どもの年齢で親御さんのグループを分けているので、悩みを共有しやすいそうです。

そして、大学生や若者の居場所として夜カフェ「憩居(いこい)空間」がスタート。「『イロトリドリ』などを利用する中高生ともつながることで、中高生が近い将来を描きやすくなったり、大学生に相談相手になってもらったりできるのではないかと期待している」という片桐さんからの話を聞くと、面白い化学反応が起きそうな期待が湧きます。

ひとつの団体がこれだけ幾重にもなった居場所事業を展開するのは、行政の仕組みではこぼれてしまう狭間をなくし、決して誰一人取り残さないという片桐さんはじめ、スタッフのみなさんの決意の証だと思います。

 

■学ぶことの大切さ。知ることの大切さ

8月には心理学を基にしたNLP(神経言語プログラミング)カウンセラーによるスタッフ向け勉強会を実施。利用者の気持ちをしっかり受け止め、心地よい時間を過ごしてもらうにはどうしたら良いかという研修を受けられました。12月は親御さんも交えて就労移行支援事業所の代表らをお迎えして勉強会を実施したところ、「障害のある子の卒業後のことがわかって安心した」など、大変好評でした。今後も学びを重ねるとのことです。

くじら雲の居場所で気ままに過ごす子どもたち

 

■晴れた空のように、明るい未来をめざして

今回の「休眠預金新型コロナウイルス対応緊急支援助成」は、新型コロナウイルス感染拡大によって孤立を深めたひとたちの居場所、困りごとのサポートをしているくじら雲にとって、大きく背中を押してくれる事業でした。

新規事業のこと、認知度が上がるまでは予約が入らない活動日もありましたが、秋ごろからはしっかり予約が入るようになり、活動日を増やそうかと検討する事業も出てきました。

くじら雲のイメージカラーは眩しいほど澄んだ“そらいろ”。「空の色は毎日いろいろですが、その日来てくれた子どもたちの嬉しい、楽しい、悲しい…どんな気持ちにも寄り添うことを大切に日々過ごしています」と居場所事業を担当している飯田さんは言います。新型コロナウイルスから1日も早く日常を取り戻して、たくさんの苦しい心が“そらいろ”に晴れるよう、活動は続きます。

 

 

■インタビューをしたPOS西岡より■

誰一人取り残さないための居場所づくりに本気で取り組むと、幾重にもなった居場所ができるのだと驚くとともに深く感動しました。私自身も三人の男の子の子育て中には、実家とは離れているため「るくらす」のようなサービスがあれば利用していたでしょう。その人の困りごとに本気で向き合い、人と人とのつながりを大切にするくじら雲さんは、長く地域に愛される拠点になることを確信しています。

 

 

Information

団体名:一般社団法人くじら雲
住 所:京都市北区紫野下門前町9-4

HPアドレス:http://kujiragumo.or.jp/

取材日:2021年12月22日 
聞き手:西岡真由美

 

同団体プログラムオフィサーサポーター 西岡真由美

 

●専業主婦から社会事業家へ-親としての経験や目線を大切にしたい-

「ずっと専業主婦のまま過ごすのだろうな」。かつての西岡真由美さんは、自らの人生をそんなふうに展望していました。それが、いつの間にか教育関連事業に奔走するようになり、2018年には「京の公共人材大賞」を受賞。「オンライン家庭教師エイドネット」をはじめ、放課後等デイサービス「7th sense」、「オンライン院内学級KAYOUプロジェクト」、障害や不登校の子どもたちの居場所づくり「エイドネットcafe」と、さまざまな活動に尽力するその姿は、誰の目にもスーパーウーマンとして映ることでしょう。

けれど、もともとバイタリティあふれる人間であったわけでも、突如として奮起したわけでもないと言います。自身の困りごとや周囲の悩み、あるいは日々の小さな気づきの解決策を模索していたら、この場所に辿り着いたのです。

「特別な知識やスキルはないけれど、経験者だからこそ見えるもの、感じることを、社会に活かしていけたら」。西岡さんは今日も等身大の自分で、子どもたちの今と未来を見つめます。

 

●わが子の闘病と復学のつまずきから、オンラインでの指導を模索

結婚を機に退職した西岡さんは、25年以上も専業主婦として家庭を守ってきました。ご自身曰く「新しい挑戦への提案には、やらない理由を考える」タイプ。そんな思考が変わる起点となったのは、息子さんが炎症性腸疾患の難病に罹ったことでした。

入院や治療による欠席が続き、これが引き金となって不登校に。親子の会話のなかで、学校に通いたいという息子さんの気持ちを感じた西岡さんは、「どうすれば、学校に通える?」と問いかけました。そこで返ってきたのが「勉強の遅れを取り戻せたら」という言葉。学習塾を経営する夫の関係で、勉強を教えてもらえそうな人はいましたが、両者にとって負担の少ない方法を、と考えていたところ、ふと思いついたのが、スカイプを利用したオンラインレッスンでした。

のちに進学した高校でも、入退院の影響で全日制から通信制への転校を余儀なくされた息子さんでしたが、留年することなく無事に高校を卒業し、大学にも進学、卒業しました。母の愛情から生まれたこのひらめきは、息子さんの治療と同時進行で同様の悩みを抱えた人たちへの事業に発展していきました。それが、自宅に居ながらリアルタイムのマンツーマンレッスンが受講できる、「オンライン家庭教師エイドネット」です。

西岡さんが夫から事業化について知らされたのは、運営のための資金繰りなどに目処が立ってからのこと。さらに、生徒の顔を見るためのウェブカメラと手元を見るためのノートカメラによるダブルカメラシステムも考案されていて、「夫がそこまで話を進めていることを知ったときは、ビックリしてしまって」と当時を振り返ります。どんなことも受け身だった西岡さんは、失敗を恐れず突き進む夫に引っ張られて、事業に深く関わるようになっていったのです。

 

●さまざまな親子の悩みにふれ、立ち上げた事業と活動

「エイドネット」が立ち上がると、多様な個性、事情を持つ人々との出会いが、西岡さんの人生をさらに大きく動かしはじめました。不登校や障害のある子、集団生活が苦手な子、わが子の将来を案じる親。そのたびに「こういうものがあればいいんじゃないか」「こうすれば楽になるんじゃないか」と想いを巡らせ、夫に相談したり、周囲の悩みに寄り添って試行錯誤したりするうちに、西岡さんは次々と新しい活動を生み出していきました。

たとえば「エイドネットcafe」は、「エイドネット」の教育コーチとして不登校児と関わるなか、彼・彼女たちの居場所をつくろうと立ち上げた活動です。専門家によるカウンセリングやセミナーなども行い、京都市の助成事業にも採択されました。また、聴覚障害のある人との出会いから、聴覚障害専門学習教室「DEAF ACADAMY」(のちの放課後等デイサービス「7th sense」)を設立。さらには息子さんの闘病体験から、長期入院中の小学生から専門学校生、大学生までにエイドネットのオンラインレッスンを無償提供する「オンライン院内学級KAYOUプロジェクト」も発足させました。このプロジェクトは、寄付やエイドネットによるボランティアで成り立っている社会貢献事業です。

「確かにすべて、言い出しっぺは私。人に押しつけるわけにもいかず、引っ込みがつかなくなってしまいました」と西岡さんは軽やかに笑いながらフル回転の現況を俯瞰します。「けれど、たくさんの方が喜んでくれて、また面識のない方からもご寄付や応援の声をいただいて、徐々に代表である自覚が出てきました。最初は“お飾り”だったかもしれないけれど、今では一人で講演もこなせるようになったんですよ」。西岡さんは嬉しそうに話します。

 

●“おすすめ”には“喜んで”。前向きな姿勢が出会いの連鎖を生む

携わる活動が拡がるほどに、人とのご縁も拡がるもの。西岡さんは、知人から依頼を受けて共感助成の信頼責任者になり、信頼資本財団の存在を知ることになりました。そして、「京都府 京の公共人材大賞」受賞をきっかけに、当時審査員だった信頼資本財団の熊野英介代表理事と出会い、社会事業塾「A-KIND塾」への入塾を決めます。「賞へのエントリーも入塾も、信頼する方からのおすすめでした。自分をよく知る方がすすめてくれるということは、きっと今の自分に必要なことだと思うから」と西岡さん。「A-KIND塾では私、副塾頭に選ばれたんですよ!」と、ちょっぴり誇らしげに付け加えるところがお茶目です。

プログラムオフィサーサポーターへの抜擢にも、「必要と思っていただいたからには」と、前向きに活動に励んでいます。お相手は、放課後等デイサービスなどを運営する一般社団法人くじら雲。京都市北区の商店街を拠点に、子どもからお年寄りまで、多世代が気軽に立ち寄れる場、地域の人が地域の人を支える場をつくろうとしています。

自身の事業分野に通じるマッチングだけに、西岡さんには団体の想いや苦労が手に取るようにわかるようです。だからこそ、これまでに得た経験や人脈を活かした具体的なアドバイスを心がけています。

「サポート期間が終了してからも、長く、生き生きと活動していけるように」。今回の事業のその先を見据えた言葉には、すっかり事業家となった西岡さんの“経験者としての強さ”がみなぎります。一方で“優しさ”にあふれたその表情からは、元来持ち合わせているごく普通の女性、母としての感性が失われることなく息づいていることを、しっかりと感じさせてくれました。

 

大学の授業にゲストとして招かれて講演する西岡さん

PROFILE 西岡 真由美(NISHIOKA Mayumi)

短大卒業後、インテリア関連企業に就職するも、病気療養のため退職。回復後、父親が経営する建設業の事務に従事する。結婚で夫がいる大阪に転居。結婚後、間もなく夫は学習塾ペスタロッチ学院を創業。2013年、夫によって自身が発案したエイドネット事業本部が設立される。現在は、京都市「NPO等民間団体の子ども・若者支援促進事業」に採択された「エイドネットcafe」と、「オンライン院内学級KAYOUプロジェクト」で代表を務め、各事業の運営母体である(株)キャニオン・マインド専務取締役。「京都府 2018京の公共人材大賞」受賞。

(公財)信頼資本財団A-KIND塾4期卒塾。4期副塾頭。

 

取材日:2021年9月13日
聞き手:チーム・Dario Kyoto