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2016.07.07

多数決の次

「小田原評定(おだわらひょうじょう)」という言葉がある。
長引いて、いつまでもいつまでも結論の出ない相談のことだ。
しばしば歴史を振り返ることが多い私は、最近よくこの言葉を思い出す。
 
1590年、天下統一を目指す豊臣秀吉に残った最後の抵抗勢力、北条氏の重臣が、戦略や降伏について討議し続けたが結論が出なかったという故事による。
 
結果的に良い場面では使われない言葉として遺ったが、月に2回開かれていたという実質的な「評定」、すなわち会議による合議制が、北条氏で内紛が少なかった理由のひとつだったと見ている。
独裁的に決めるのでもなく、多数決に頼るのでもなく、議論を尽くした後、納得して事を進めるので、その後に反目して分裂していくことが極めて少なかったのだと思う。
 
学ぶべきことは多い。
とは言いながら、あくまでも「統治」がうまくいったという話である。
 
江戸時代、庶民でも、重要なことはとことん話し合って決めていたと言うが、国政の決定にまで関与する道が開かれていたわけではない。
 
ギリシャのポリスが史上有名だが、直接人々が話合って物事を決定していた時代を経て、統治する側とされる側が世界の各地に明確に生まれて以来、社会は統治する側の決定で動いてきた。
これを覆すために統治されていた多くの人たちが血を流した歴史があって近代議会政治が生まれており、現在各国ごとに不備が多いとは言いながら、それに伴って生じた代議員を選ぶ選挙権は尊ぶべきものであると私は思っている。
この歴史が無ければ、現在私たちが呼んでいる「自由」というものは、かつてのようにもっと制限されたもののままであっただろう。
 
しかし、一方で、選挙や国民投票と言った投票行動が万能であり、これを行使できる権利や、これによって「民意」を問われることが、これからの豊かな生き方に直結しているとは考えていない。
死票の中に不満がくすぶり、代議員の人間的資質や政策実現後の結果に対する期待が裏切られることが起こる可能性が多分にあるからだ。
また、投票を前にして、良い社会を産むためのはずの意見や被選挙人候補間に巻き起こる批難の応酬そのものに、闘いの芽が存在していることに矛盾を感じるからだ。
 
私たちが目指したいのは、どの人の命も等しい重さがあることを理解し(人類の一員としてどの生物の命もとまでは言えないのは心苦しいが)、人と人や人と自然の関係性の中にある自由ばかりでなく不自由もまた謳歌し、豊かに生き、未来に命を繋いでいくことだ。
すなわち、関係性の中にしか生きられない生物には、不自由さ・制約というものも当然あるはずだということを受け容れながら、ともすれば否定したくなる違う文化を尊重しようとする姿勢を持つ努力を不断に続け、未来に人類を繋いでいくことだ。
 
インターネット環境の中で爆発的に社会が変容を遂げている今、次の方法論を探す時代に来ていると、イギリスのEU存続に関わる国民投票や目前の参議院議員選挙の行方を見ながら考えている。
それが国家を超えた民主主義にに繋がるのではないだろうか。
 
一足飛びに理想には近づけないので、7月10日、未来により近づき易いと思う考え方に投票する。
 
2016年 7月
信頼資本財団 理事長 熊野英介
 
*今後は2ヶ月に1度の更新とさせて頂く事となりました。今後ともご覧頂けますと幸いです。