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皆さまに今伝えたい、知ってほしい財団からのメッセージ
2020.01.24

まずは目指す先を描いてから

当財団は丑年生まれ。
子年の今年、1巡目が終わり、来年また牛がやってくる。
十二支の話で「私は足が遅いからみんなより一足先に出かけよう」と出発したのが、2番目に着いた牛だったと言われている。
ちゃっかり牛の背に乗って出かけ、最後に前に出て1番乗りしたねずみ。
前回の子年は、リーマンショックの年だった。
現在、急速な勢いでドル離れが進んでいる世界と好景気を続けているように見える米国経済のギャップ調整局面はいつ来るのだろうか。

 

気が付けば米中両経済大国の狭間にいる日本では、毎日のように「評価」が溢れている。
 
日本はもはや先進国ではない。
海外からの観光客が増えているのは、日本の物価が安く、日本人が大挙していた頃のアジアと同じような経済状態の国になったからだ。
国際学力調査「PISA」において、科学は5位、数学は6位だったが、情報を読み解くために不可欠な読解力が世界で15位になってしまった(2000年は科学2位、数学1位、読解力8位)。
世界的に有名なスイスのビジネススクール「IMD」が発表した、世界63の国と地域を対象に行った「世界人材ランキング」で日本は35位だった。
その評価項目である「人材への投資と開発」には教育投資のGDPに占める割合、教員と生徒の比率、「海外や国内の人材を魅了する力」には給与、生活の質、モチベーション、「人材を供給する力」には管理職の国際経験、理系の卒業生の割合、大学教育、言語スキル、国際学力調査PISAなどが含まれるが、
項目にある管理職の国際経験は63位、言語スキルは62位、大学教育は51位だった。
世界経済フォーラム「WEF」が発表したジェンダーギャップ男女の地位の格差は世界で121位だ、等々。
 
一方で、外国人が驚く日本人(の美徳や独特な感性や優秀さ)という自己評価情報も溢れている。
 
評価には、常に評価する側の意図が潜んでいるので、これを取り上げて一喜一憂する必要は無いが、甘い自己評価にばかり浸り、社会で起きていることを冷静に見つめ、考え、判断し、動く習慣を身につけておかないと、自分の尊厳も周囲の尊厳も守れないような社会に生きることになるかもしれないので、そこは気をつけた方が良い。
 
そして、劇的に進行中の少子化や、世界の先頭を切って走る高齢化社会を経て、どんな国・地域にしていきたいのかを考えた上で日々どう行動していくかを決めた方が良い。
 
今からAIや情報産業の分野で世界のトップにいけるだろうか、
デジタル通貨を視野に入れた金融ではどうか、
自然エネルギー関連産業ではどうか。
いずれも現在、米・中の企業が世界市場の中心に居る。
 
Japan as No.1と言われたような経済の再現を望むのは、もちろん最早無理である。
しかし、世界の人々の生活に潤いを与えるような文化を長い時間をかけて丁寧に育み、サブカルチャーも育成してきた地域として、文化の大国になることはできるのではないか。
 
そのためには、東の端に人類が作った文化を差別的に誇る気持ちではなく、磨きこみ、整え直し、楽しんでもらう奉仕の気持ちが必要になるだろう。
この姿を目指して社会を組み立て、未来を生きる子どもたちを育て、衣食住の文化にも諸々の形で携わり、人と人、人と自然の関係性を増やしてさらに文化の層を厚くし、必要に応じて科学技術を取り入れ、平和な文化大国として世界のモデルになっていく道を歩めないかと考えている。
 
そうして向かう先を決めた時に、どう生きていくのか。
人間社会も自然に倣うべきだと考えている。
自然界は、うたかたであり、曖昧であり、あてにならない。
多種多様で微細で時間の経過と共に変化する集合体が自然である。
弱さの集合体とも言える。
この時、弱さの反対は強さでなく、自然の反対の人工物ということになる。
自然の生命体は、弱きものがつながり、強靭なレジリエンスを生む。
つながらないものは脆い。
 
近代思想は、自然や生命を要素分解し、パーツの集合体と認識してしまった。
人間の体さえ、パーツの組み合わせと捉え、一つ一つのパーツの精度が良ければ、人間は健康になれると主張した。
しかし、実際のところ全ての器官は、情報でつながっている。
「生命は機械でない。生命は流れである」と言ったのは、ルドルフ・シェーンハイマーというドイツの生物学者である。
東洋医学では、気が流れる、気が滅入る、元気、勇気など、「気」に関する言葉が多くある。
「病は気から」などは、器官がつながって全体を成していることを示している。
生物がパーツで出来た機械でないならば、家族関係もまた役割分担で成立する機械のようなものではない。
会社のような組織も思いやりや共感といった「気」が流れれば、自己調整出来る修復力が生まれる。
家族や組織の集合体である社会にもまた同様のことが言える。
 
「社会は、共感の流れである」という思いで、文化大国を目指し、目の前の社会問題解消に向かい、世界の激動に備えていく。
その時にシステムとして必要になるのは、良質な人と人の関係性もまた資本・元手になる社会、信頼資本社会であると考えている。
干支でも語られる牛のように歩みの遅い私たちだが、2030 年までには具現化していきたい。
 
 
今年もご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
 
 
2020年正月
信頼資本財団 
理事長 熊野英介 ・ 一同