インタビュー信頼資本財団に関わる人

フェロー

ものごとには順番がある

<シニアフェロー>株式会社貞雄代表/建築家/暮らし研究家
土谷 貞雄 さん

 土谷さんは暮らしの研究家という珍しい仕事をしています。今は一年の半分以上を中国で暮らし、日本でも海外でも人々の暮らしを調査し続けています。そうした人々の暮らしを見つめながら取材やコラムなど執筆活動もしています。そんな氏が心がけていることが、「ものごとの順番」だそうです。

書くこと

 文章を書き始めた当初は一つの原稿にたくさんの時間を費やしたそうですが、今はずいぶん早く書けるようになったそうです。その秘密を次のように話します。原稿を書く時、テーマだけが決まっている状態で、詳細がなくてもまずは書き始めます。書いているうちに構想が広がり、そして考えもまとまってきます。書くことで新しい発見も生まれてきます。創造性とは思考なのでなく身体から生まれるものだと言います。多くの人が考えるという言葉に惑わされ、考えることから始めるのですが、漠然とした思考からは、実は考えは発展していかないのです。しかし一旦紙の上に書いてみると何が課題なのか、どんなメッセージが必要なのかおのずから出てくるのです。考えて書くのでなく、書くから考えられるのだそうです。このことは「ものごとの順番」を考えるいい例だと言います。

約束の順番

 約束について、決めた約束の日にとても重要そうなアポが入ることはあるかもしれません。しかしそうした時はじめに決めた約束を動かしてはいけません。総理大臣が来ようと何があろうと約束は約束です。決めた約束を守ること、順番を守ること、人との約束に優先順位をつけないことが大事です。特に自分にとって大事なことでなく、相手にとって大事なことを守ることを心がけるそうです。

目の前の出会いに全力を尽くす

 こうも言います。未来の何かに心を惑わすことなく今目の前のこと、特に人との出会いは運命として受け入れることだと言います。それは今の自分は昨日の自分がつくったもの、今目の前にいる人は自分の鏡だと思って全てを受け入れることが大事なのだそうです。例えば仕事を依頼する時、いろいろと迷いがあるかもしれません。しかし目の前の人に頼めばいいのだそうです。目の前の人を信頼していくこと。そこにこそ未来をつくっていく鍵があります。

未来は決まっている

 未来をつくっていくと書きましたが、一方で未来は決まっていると言います。それは今日会う人、明日会う人はすでに決まっているのです。昨日までの自分がその状況をつくっています。今判断をして決めているのではないのです。偶然のようにいる目の前の人との出会いは偶然ではないのです。人は運命の中で動いています。しかし運命は昨日の自分がつくっています、だから今日の運命は変えられないのです。積極的に運命を受け止めていくことが迷いのない人生を歩むことだそうです。

潔く生きる

 多くのことを、その場で決めることを心がけているとも。時間をかけて考えても答えはそう変わるものでありません。それより迷うことによって失う時間の方が問題です。答えはわからなくても潔く決めていくこと、決めることで未来は動いていきます。迷っていてもそれは止まっていることと同じです。たとえ小さなことでも全力で決断していくこで迷いを捨てます。ここでも順番です、考えるのでなく、先に決めることです。

美しく生きる

 美しく生きる。それは美しいものをつくるということでなく、生き方の美しさです。その生き方とは前述したような、順番を違えない生き方です。今起きている目の前のことに惑わされずに、何事にも動じず、どのようなことも自らつくりだした運命でありそしてその先にすばらしい未来がいつも待っていると思うことです。人となにかを比較するのでなく、自分を主役にして自由にそして大胆にしかし淡々と毎日を過ごすこと、そのことが美しいことだと言います。床の間に飾られた一輪の花のように研ぎ澄まされた生き方をしたいそうです。

日常を大切にすること

 年齢を重ねて毎日の暮らしのリズムや家事を大切にもしています。朝は4時には起きて仕事や片付け、そして料理もするそうです。家事をきちんと行うことは生きる基本だと。毎日のように海外を飛び回る日常。しかし出張が多くてもできるだけ日常の暮らしのリズムになるように、そして家事を心がけるようにしています。特別なことより、日常に意識を向けていくこと、そのことで心の拠り所が生まれて来ます。思ってもみないすばらしいことが起きる明日にむかって今日を全力で生きるのです。そしてその秘訣は今日の些細な日常をこなしていくことだそうです。

 土谷さんからは今までの経歴や起きたことなどを取材しました。そのことについてはまたどこかで書こうと思っています。イタリアの留学生活、会社の倒産、無印良品時代、その後のコンサル時代、ハウスビジョンという活動でアジア各地を回って来たこと、今行っている暮らし研究という仕事の内容など様々な話を伺いました。しかしそうした経験を通して今辿り着いているのは今回書いたような「生き方の話」でした。財団が支援する若い人に何かれの話が役にたてばと思います。迷いの多いのが人生です、しかし迷わない生き方は選択できます。運命は決まっている、しかしその運命はつくっているという禅問答のような氏の話の中に幸せにそして豊かに生きていくためのメッセージがありそうです。

 プロフィール 

株式会社貞雄代表。建築家。暮らし研究家。都市生活研究所を主催。1960年東京生まれ。2007年に無印良品の家の取締役を経てコンサルとして独立。その後も暮らしの良品研究所など多数の企業の研究所や商品企画室にて研究や商品開発を支援。現代の暮らしについてフィールドワークやアンケート調査、商品開発や執筆活動などを行っている。
2001年より企業と建築家および研究者による未来の暮らしの展覧会HOUSE VISIONをアジア7カ国で企画運営。2018年の第三回HOUSE VISION北京の終了を機に中国深圳にベースを移し、中国全土の暮らし調査を本格的に開始している。