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フェロー

シニアフェロー
高木 俊介
精神科医
京都・一乗寺ブリュワリー代表

1957年生まれ。
1983年、京都大学医学部卒業。
同年より精神科医として働く。
山の中に隠され社会と隔絶されて鉄格子に囲まれた、日本の社会に染みこんだ差別の象徴としての精神病院で10年、
象牙の塔と呼ばれ現実とは隔絶した教育と研究を続けながら専門家という肩書きで社会に君臨する大学病院で10年勤務。
その中で、「精神分裂病」という病名を「統合失調症」に変更する作業にたずさわり、2002年に病名変更が決定されたことを機に大学病院をやめ、
充電期間として読書と趣味に2年間ひきこもる。
2004年に、重度の精神障害者の地域生活を多職種による訪問で支援するACT(包括型地域生活支援)をはじめるために、たかぎクリニックを設立。
訪問診療にかけまわっている時に、3・11東北大震災を経験。
学生時代に水俣の支援や反原発運動にかかわりながら、社会人としては何もしてこなかっただけでなく、
原発や公害を受け容れてさえいたことを反省し、福島の子どもたちを八丈島で保養してもらう福八子どもキャンププロジェクトをはじめ、9年間続いている。
同時に、地域での精神障害者支援を続ける中で、就労支援の必要性を感じ、
それにむすびつく事業としてクラフトビール醸造のために京都・一乗寺ブリュワリーを立ち上げる。
現在、ACTーK(ACT京都)で訪問診療活動をしながら、一乗寺ブリュワリーを障害者就労支援とむすびつけるべく悪戦苦闘している。

 

■著書 「ACT-Kの挑戦」(批評社;増補新版2017)、「こころの医療宅配便」(文藝春秋社2010)、「精神医療の光と影」(日本評論社2012)等
■訳書 「オープンダイアローグ」(日本評論社2016)等

 

福八子どもキャンププロジェクト;
http://www.fuku8camp.com/

京都・一乗寺ブリュワリー;
http://kyoto-ichijoji-brewery.com/

シニアフェローとして

区切りとしての2020年ということを考えたい。
後になって振り返れば、単なる事大主義的妄想だったということになるかもしれない。2001年も、2011年もまた、そうであったのだから。
2001年、イスラム世界の徹底的に抑圧された一部がグローバリズムを謳歌する世界に向けて放った矢が、世界が実は矛盾と分断に満ちていることを暴露した。だが、不安にかられた大国による圧倒的な力による〝報復〟がそれを覆い隠した。
2011年には、世界文明の最先端であったはずの原子炉が震災により厄災に変わった。だが、それも同じ科学文明による数字の操作と糊塗によって、この世界は何事もなかったかのように偽装されてきた。
そして2020年、国家という人類の誇るシステムと、リスクにうろたえるだけの人類の知性の脆弱さが、ウィルスによって突然白日の下にさらされている。今回のそれは、人間の生全体を巻き込んだ新自由主義による世界の分割と支配が、自ら招いた生態系の破壊によって自然から復讐されるという歴史劇である。
将来の人類は、帝国主義的世界分割の完成にはじまり大量虐殺を伴う総力戦と世界大恐慌を経て、原爆という人類を破滅の淵にまで運んだ20世紀前半と並ぶものとして、この20年を世界史に記憶するだろう。
人類は、fragile だ。

 

この「こわれもの」(fragile、vulnerable)としての人と社会の中で生きるひとりとして、何ができるか。目の前に次々と現れる様々な問題と喜びと苦難と達成と迷いと決断を繰り返しながら、気がついたら、ここにいました。