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■Kyoto Intensive area care unit for SARS-Cov2対策部隊

●同団体プログラムオフィサーサポーター 福本 晃

 

今回から休眠預金による助成先と各団体の伴走者(プログラムオフィサーサポーター=POS)にインタビューして作成した記事を掲載していきます。

各団体のインタビュー記事はPOSが、POSのインタビュー記事はプロジェクトチームである「チーム・Dario Kyoto(プロフィールは末尾)」が行いました。

ミッション「自宅療養者を救え!」に挑む医師たち
Kyoto Intensive area care unit for SARS-Cov2対策部隊 (KISA2隊)

今回の「新型コロナウィルス対応緊急支援助成」の目的の一つは、コロナ禍で困っている人々、なかでも公的機関からの支援が届きにくい生活者への支援を行うことです。

京都において、そうした立場の新型コロナ患者に対する訪問医療をいち早く行ってきたメンバーが立ち上げたのが、Kyoto Intensive area care unit for SARS-Cov2対策部隊、通称KISA2隊(きさつ隊)です。チーム発起人のよしき往診クリニック・守上佳樹医師に、この取り組みについて伺いました。

 

往診用の医療キットを説明する守上佳樹医師

 

■高齢の自宅療養者の命を救うというミッション

「2020年の夏頃、コロナの第1波、第2波と来る中で、今後の3、4、5波のことを考えました。コロナ陽性者の病床確保のために、行政は軽症患者に対して、ホテルを隔離場所として想定していました。が、当時から、私たちは、現実の医療現場で起こってくる大きな課題は、高齢で自宅から出られないコロナ陽性の自宅療養者だと想定していました。病院にも行けない、救急車も呼べない、そもそも検査もどうやって受けたらよいかわからないといった高齢者世帯がコロナに感染すると、本当に孤立してしまいます。医師としてどう行動すべきかを考えた末、24時間365日体制のコロナ専門の訪問医療体制が絶対必要だという結論に至りました。そこで、京都府の入院コントロールセンターと連携を取り活動をしていましたが、新しい医療チームとして、通称KISA2隊(きさつ隊)を2021年2月にスタートさせたのです」。

取材時には6名の医師、訪問看護ステーション3拠点、歯科医チーム、訪問薬剤師チーム、栄養士チームが中心となった京都の連合有志医療チームになっていましたが、当初から人が集まったわけではなかったそうです。

「京都市全域のコロナ陽性患者の自宅に往診し、隔離解除まで責任をもって100%断らずに対応するというこのミッションには、正直、どのような医療者でも踏み込むのを躊躇すると思います。皆なかなかやりたがりません。24 時間365日対応で、夜中も要請があれば訪問しますから、自由な時間がほぼありません。私自身、感染を考え、家族とも離れて宿直所に寝泊まりを続けなければならない時期が出てきています。それでも、誰か一人が行動を起こすと、少しずつ同じ志を持った仲間が増えてきました。困難なミッションですが、住民のために誰かがやらないといけないと思いました。」

 

■京都市の自宅死亡ゼロを実現した24時間訪問医療体制

初動は、京都府医療入院コントロールチームから、特に危険性が高いと判断された患者について連携の連絡が来ます。ピーク時には、1日30 人をそれぞれの自宅で管理していたというから驚きです。ちょうどその頃、京都府全体のコロナ入院病床が約300床(人)だったので、なんと京都全域の入院患者の10 %相当の患者に関与していたことになります。

守上医師は語ります、「あまり報道されませんでしたが、京都でも緊迫した状況だったようです。最も状況が悪かった時には、コロナ患者の症状がとても悪い状態でも、一人も入院できないという、まさに緊急状態でした。救急車で入院という選択肢がなかったので、自宅で診るしかありません。訪問医療がなければ命が危なかった現場は本当にたくさんありました」。

たとえばいちばん最初に訪問した家では、このような状況だったそうです。

70代の男性と女性の2人暮らしで、男性は認知症もあり、女性は少し体が不自由な状況。保健所からは「入院されてはどうですか?」と打診があったそうですが、「それは無理ですわ」との返答を繰り返されていました。KISA2隊が訪問すると、明らかに男性の血中酸素濃度が低い状態で、即時入院が必要だと判断しました。同午後、知らせを受けた入院管理チームが訪問したところ、男性が玄関先で倒れて動けなくなっているのを発見、すぐに救命措置を行い、一命を取り留めました。

「これは、こういう事態が今後全国各地で益々起きる、我々のような訪問医療が必要不可欠になると確信した出来事でした」と、守上医師は語ります。

また、全国におけるインタビュー時点でのコロナによる自宅での死亡者数は500人以上とマスコミが報じています。京都市ではKISA2隊が関わった自宅療養者100人以上のうち死亡はゼロに抑えることができたとのことで、確かな実績が上がっていると推察されます。

 

コロナ患者の自宅での往診医療現場の様子

 

■手弁当の限界を突破するために応募した休眠預金助成

今回の休眠預金助成のことは、知人から話を聞いたという医療機器メーカーの知り合いから紹介してもらったそうです。

「我々のこの活動は、現在のところ、行政からの特別な資金的援助はなく、自己資金の持ち出しで活動を行っている状況です。そんな折、この『新型コロナウィルス対応緊急支援助成』のことを知り、我々の事業はこの助成の目的とぴったりマッチすると思い応募、採択されました」という守上医師の話を聞いた時、どうして行政からの資金援助がないのだろうかと疑問を持つと同時に、本助成活用の意味があると考えました。

KISA2隊の今後について尋ねてみたところ、まず「既存のこの事業を必要性がある限り継続すること。そして同じ志を持つ医療従事者の輪をもっと広げること」という答が返ってきました。

採択された理由は、今後、現在のコロナに限らず、こういった緊急時にフレキシブルに対応できる医療体制の準備と知見の共有が大切だと考えている、という点にもあります。従来の日本の縦割りの組織体制とは別に、こういった連携による“危機管理医学”の分野の知見も重要視されると考え、準備をしているという活動も同時に支援していきます。

「今回こういった志を持った仲間が集まって医療活動をしていく中で、重要だと感じる組織作りのポイントは、“フレキシビリティー(柔軟性)”と“アジリティー(機敏性)”の2つです。今回のチームメンバーの中でも、現場の最前線で動きながら、状況に柔軟に変化対応し、スピーディーに行動していくマインドが醸成されていっています。これらの貴重な経験を日本の医療業界や日本の危機管理の分野に活用して頂けるように、これからも、情報共有に努めていきたいと思っています」と述べている守上医師の言葉に、期待したいと思います。

 

 

■インタビューをしたPOS福本より■

今回の取材を通じて、医療分野に限らず、目まぐるしい環境変化に即応するために欠かせない組織運営のあり方、意思決定のスピードや効率、チーム編成や役割分担の柔軟性が求められる社会が到来していると感じました。

また、守上氏のお話をお聞きして改めて感じるのは、緊急時に柔軟に動ける組織には、平時にいかに社会や地域との信頼関係の構築をできているかが大切だということ。あの人が言うんだったら、一緒にやろう!あの人が言うんだったら手伝いたいといった、仲間という信頼資本。不確実性が高く、不透明な時代を、組織と個人が生き抜くためには、そのような「関係性の積み重ね」が大切になると改めて感じました。

 

 

Information

団体名:Kyoto Intensive area care unit for SARS-Cov2対策部隊 (KISA2隊)

HPアドレス:https://kisa2tai.net/

取材日:2021年7月8日

聞き手:福本 晃

 

同団体プログラムオフィサーサポーター
兼 当財団プログラムオフィサー福本晃

 

●いまこそ大切なのはそれぞれの本質-どう売るかよりどう役に立つかという視点

サッカーに明け暮れた高校時代。突然の、父の会社の倒産。将来何者になるのかまだ何もわからなかった福本さんは、将来の自分を探すため、まずは大学で学ばなければ、と思いました。ご本人いわく「偏差値も低かった」福本さん、現役合格はかなわずアルバイトで学費を工面しながら一浪後大学に入学します。詐欺まがいの憂き目に遭い事業をたたんだ父の姿を見て、心の中には社会に立ち向かう闘争心や、弱者に寄り添わなくてはならない正義感といったものが芽生えていたのかもしれません。

縁あって株式会社船井総合研究所(船井総研)に入社、中小企業の経営者をサポートする仕事ができたらいい、という思いでした。自分が優れた経営者になるというのではなく、サポートする側に興味を持ったのは、やはり父親の奮闘する姿を見ていたからなのでしょう。

 

●マーケティング手法で導くビジネスモデル

福本さんは京都の西陣生まれ。機織りの音が日常的に聞こえる中で育ちました。実家は染物工場を営んでおり、普通にいけば商売を継いで西陣の若旦那に収まっていたかもしれません。でも突然の試練は彼の人生を変えることになりました。

船井総研に入社後、自分の分野を作りたいと、まだ誰も着目していなかったリユースの業界に目を付けました。まだ混とんとしている業界、コンサルタントが力になれる業界だと考えたのです。福本さんは社内にリユース業界専門の部署を立ち上げました。この目のつけどころ、嗅覚が福本さんを押し上げます。

求められたのは市場の実態、伸びている分野、これから来る商品カテゴリー、これらの情報をもとに時流を読むこと、その店にふさわしい提案を行うこと。マーケティング手法を取り入れた販促改善からスタートし、全国を歩き回り繁盛店のノウハウを蓄積しつつ、ビジネスモデルを構築しました。それをもとに異業種の参入も推進しました。福本さんが手がけたクライアントの中には年商50億を超える企業、ゼロから始めて株式上場を果たす企業、20億から6,000億へ業績を伸ばした企業など、成長企業が数多く生まれました。企業がどんどん成長していく姿を目の当たりにするのは幸せでした。

当時リユースという考え方が受け入れられ始めた時代の流れにもマッチしたのでしょう。福本さんが提案する売り上げを上げる「やり方」は功を奏し、全国600店舗のクライアントを抱えるまでになりました。30代半ばで部下が50人、大きな責任を背負う組織のマネージャーとしての経験もされました。

 

●やり方からあり方へ。理念を利益に変える方法

マーケティングは数字によって裏付けされます。データを集め、分析し、答えを導く。つまり、「こうやればうまくいく」という「やり方」を示してあげる。でもそれだけでは足りないことに福本さんは気づきました。

業界が成熟するにつれ、同じように提案してもそれほど売り上げアップにつながらない店舗が出てきました。何が違うのか、考えた福本さんがたどり着いた答えは「やり方」以上に「あり方」が大切だ、ということでした。ビジネスモデル以前に企業の理念ありき、その理念に沿ってはじめてやり方が生きる。そのお店がどうありたいのか、どんなビジョンを持っているのか。またどのように社会に貢献できるのか。経営者の思いを知り、そのビジョンに向かってビジネスモデルを提案していくコンサルタントこそがいま求められているのだ、と。

やり方だけを提供するのではなくて企業のあり方を整えてそれに合ったやり方を提案していくという方向にシフトしよう、と、このタイミングで独立。株式会社A-DOS(エードスは京都弁の「いいね!」)を立ち上げました。

 

●情報が簡単に手に入る時代、コンサルタントの存在意義とは寄り添ってともに走ること

企業にしても人にしても本質や軸が問われる今の時代、理念をしっかり持ってその理念を利益にも変えていくことが大切であり「どう売るか」よりそれが「どう役立つか」という視点が大事で、これが結果的に収益につながっていくと言います。企業、経営者の本質に迫ろうとすることはコンサルタントがより深くクライアントとかかわるということでもあります。この人のためにどれだけのことができるのか、人として真摯に向き合わなくてはならない、ということ。それがA-DOSの「あり方とやり方を繋げて、理念を利益に変えるお手伝い」という理念につながっています。

そんな福本さんが、信頼資本財団休眠預金事務局も兼任してプログラムオフィサーに就任しました。事務局インタビューにもあったように、当財団の社会事業塾の卒塾生ですが、この塾で、組織の「あり方」の重要性や、収益は金銭だけではなく、人と人との関係性でもあるのだということを学びました。

さらにそのサポーター業務として自らも1団体を担当、それがKISA2隊です。同団体は、医療に携わる人たちが特別な思いによって集い、活動をしています。“思い”がないとできない仕事です。事業モデルはある程度完成されていて、福本さんの手法に従うなら「あり方」はすでに確立している。必要なのは「やり方」です。それでもすでに運営は進んでいますから、今回の事業で手伝うとしたら新型コロナ対応に限らない、緊急時に機能する医療システムを完成させるためのサポートです。持続可能なシステムの構築については福本さんが築いてきたキャリアが生かされるだろうと思いました。

セミナー講演中の様子

PROFILE 福本 晃(FUKUMOTO Akira)

㈱A-DOS代表取締役。元船井総研上席コンサルタント。小売業界、住宅不動産業界、通販業界のコンサルティングを経て、2000年に、リユース業界専門コンサルティング部門を立ち上げ、全国600店舗のクライアントを持つ部門に育て、株式上場企業など数多くの急成長企業を作り出してきた。2017年に株式会社A-DOSを設立。中小企業向けに、個別コンサルティング、企業研修、経営者勉強会など企業への幅広い支援を行っている。

(公財)信頼資本財団A-KIND塾5期卒塾。

現在、同財団の休眠預金事務局プログラムオフィサーを兼任。

著書『はじめようリサイクルショップ!中古マーケティングの真髄』(同文館出版)もある。

 

取材日:2021年7月28日

 聞き手:チーム・Dario Kyoto

チーム・Dario Kyoto
某ローカルラジオ局仲間で組んだユニット。 必要時に応じて招集されるプロジェクトチームであり、企画・取材~原稿アップまでを担うライター集団。
イタリアの優男のような命名は、Radioのアナグラム。
メンバーは、小窪泰子・山田玲子・西田奈都代(デスク)の3名。