インタビュー

成長を続ける人材育成部長【後編】

<A-KIND塾5期生>
株式会社ヒューマンフォーラム 人財育成部 部長
大槻彦吾 さん
A-KIND塾での学び

 A-KIND塾に入ったきっかけはどんなことですか?

 ヒューマンフォーラムから毎期、2名ほど参加していて、社内で5期生に推薦してもらった形です。前から存在は知っていたので、早く行きたいなと思っていました。受講の前にも熊野さんの講演を見たことがあって、キレキレだなという印象です。もっと知りたい!と思いました。

 毎月の講義や班別の卒業制作など多様な面があるとは思いますが、実際に受講されてみていかがでしたか?熊野塾長の印象は変わりましたか?

 まず初回の講義内容がむちゃくちゃ面白かった。ぼくがCAMPで伝えているメッセージともリンクしていたので、嬉しかったですね。
 ぼくは熊野さんをモノに例えるなら、日本刀だと思っています。鍛錬されて、芸術的な美しさがあって、間合いに入ったらバサッと。斬られたことにも気が付かないくらいのスピードで斬られる。ただの切る道具ではなく、冷淡ではない、温かみを感じる日本刀。

 すごい例えですね。日本刀は刀の中でも操るのが難しいそうです。先日、ジム・ジャームッシュが初めて撮ったゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』を見ました。その映画ではゾンビは銃ではなく、日本刀でしか倒せないという設定です。ジム・ジャームッシュが、なぜそんな設定にしたかという質問を受けて、鍛錬をした人しか使いこなせない武器の象徴として日本刀を選んだと答えていました。ゾンビを斬殺するときに、駆除ではなく葬るという行為に昇華させるためには日本刀がぴったりのモチーフだったそうです。
 講義のほかに、印象に残ったことはありますか?

 6か月のプロセスもすごく面白かった。班別にフリーマーケットに出品する商品作りをする中で、ぼくらの班は合議主義のような、合意しながら進めていくような形になっていた。自分としても年齢が上の方だったので、若いメンバーがのびのびできる方が良いなぁと見守るような立ち位置でした。そして最後の最後、商品の発注の段で、納期が間に合わないことが判明した。その時に、自分の中でパチンとスイッチが入った記憶があります。「これヤバイかも」となったときのために、プランBを自分の中では用意していた。間に合わないと確定した瞬間に、ぼくはこっちでいこうと、トップダウン型に切り替えました。実際に普段行かない会社の倉庫に行ったりもして。結果的に班のメンバーも内発的動機をきちんと持てて、社会的に意味のある商品になった。その組織の変容の過程を体感できたのが面白かった。組織の在り方は環境によって、変化しなければいけないから。全部、合議制でもダメだし、トップダウンだけでもダメだし。こういうタイミングでは、トップダウンに切り替えて、チームとして結果を出すという体験が面白かった。

 貴重な体験ですね。遠慮していたわけではないけど、年長者として気は遣っていた。例えば、みんなでいっしょに同じ船に乗っていたとして。晴れていて凪のときは、みんないっしょにワイワイ楽しく、で良い。でも嵐が来たときに合議制やってたら、もう間に合わない。その時にぐっと舵を握っていったということですね。その変容について、班のメンバーの反応はいかがでしたか?

 その時のことについてちゃんと聞いた記憶はないけど、最中では面白がってくれていましたね。トップダウンに切り替えた時も、改善案みたいなものはどんどん出してくれていました。

ヒューマンフォーラムCAMPの建付け

 このインタビューの前日に、大槻さんのお仕事ヒューマンフォーラムCAMPに半日、同席させてもらいました。その中で、EXTREME LOANCH PAD(エクストリームローンチパッド)というプログラムが印象に残っています。CAMP参加者のひとりにインタビューをして、そのインタビュー対象者が求めるものを班で話し合って、最寄りのコンビニに買いに行く。制限時間は、班内での話し合いから実際の買い物まで含めて1時間。予算は1,000円。
 3つの班がありましたが、どの班もとても興味深い買い物でした。制限があるからこそ、色々な工夫が生まれていた。ある班はプレゼントそのものが、いかに喜んでもらえるかという工夫。プレゼントをどう渡すかで喜んでもらおうと、演出にこだわった班もありました。どの班もそうですが、実際に最寄りのコンビニに走っていく姿がかっこよかった。あのプレゼンを横で見ていて感動しました。体験を通じて、何かを学んでもらうというプロセスはA-KIND塾に通ずると思いました。

 EXTREME LOANCH PADは元々、スタンフォード大学のDスクールという中のカリキュラムの一つをアレンジしています。特徴は高速でインタビューして、高速でプロトタイプを作ること。接客研修のために全国を回っていた時に、接客の本質を伝えるために編み出したプログラムです。

 あれはすごい発明ですね。初めてヒューマンフォーラムの人材育成の現場に立ち会いましたが、ぜひ参加したいと思いました。あの企業研修には、他の会社の方や大学生も参加していました。その意図はどんなところですか?

ヒューマンフォーラムCAMPの建付け

 やっぱり多様性ですね。自分たちではない異質なものが入ることによって、互いに刺激を受けあうし、視野も広がりますよね。発想も拡大されていく。A-KIND塾で知り合った滋賀で学生の就職支援を行う株式会社Re-birthさん(代表取締役 竹林竜一さん、A-KIND塾4期生)のイベント「はたらくのつくりかた」で大学生数人と知り合うことができました。どの学生もすごく純粋でピュアで、ぼくらよりも先端をいっているという感触を持ちました。それまでは「最近の若い者は、」みたいな感覚があったけど、全然違った。だけど外部環境があまりにも変化が大きいから、学生が社会に対して失望しているという印象も持った。例えば震災やコロナの失望感と、貧困のない世界を目指したいという感度、どちらも抱えている学生がいた。その学生に参加してもらったら、面白いなと思って、お声がけしました。今回はオンラインがベースだったので、全国から参加してもらうことができました。

 大槻さんの中で、若者感が切り替わった具体的なきっかけはありましたか?

 あるイベントで女性の学生が、「NPOは社会貢献で、株式会社はお金儲けですよね?NPOでお金儲けってどうなんですか?」と発言していたのが耳に入ったんです。それでちょっと気になったので、声をかけました。
「別にお金稼ぐって悪いことじゃないんだよね。価値があるからお金を払ってもらえるわけで。お金には社会を回す、循環させる機能もある。良いとか悪いとか二元論を持ち出すことで、分からなくなることがある。人間で例えると、自分の良い所とダメな所を分けて考えてしまいがちなんだけど、ダメな所こそ自分の個性で、それがエネルギーの存在場所だったりする。だけど見ないようにすることが多いから、まずはそのダメな所を肯定してあげた方が、認めてあげた方がいいんじゃない?」というようなことをその学生に伝えました。
 そしたら泣いてしまった。その時に、「あぁそうなんだ、今の学生は解放されていないんだな」と気づいた。すごく真面目だから、規律を正して、自分のダメな所を自分で厳格に罰している。それが外に向かうと、「あの会社は良いけど、あの団体はどうなの?」みたいな。その思考の癖からちょっと離れてほしかった。この会社はこういうことで儲かってて、この団体はこういうことで社会貢献してる、そしたらいっしょになんかできねえかな?とか、そんな風な切り口で考えられる方がいいなと、その涙で思いました。

 学生にとっても貴重な経験だったでしょうね。

 ダメな所こそ、その人の個性っていうのはCAMPの根底にある考え方です。CAMPには「人間あるある」への気づきを仕掛けています。人間って規則的で合理的に動くようでいて、恣意的で感情的で衝動のまま動いている。その衝動=思い込みを外していく仕掛けを散りばめている。例えば、テーブルのサイズをあえて小さくして、触れ合わなければいけない距離にすることでコミュニケーションを増やしたり。
 チームを分けても、あえて役割を与えないフェーズがあります。役割を与えるとスムーズに進行できるのはもちろん分かっている。でもスムーズにいかなさを経験してもらうことで、役割の意味が理解できる。役割は先入観を発動する側面もあるから、リーダーを作ると、その他の人が引っ張ってもらおうと依存する。だけどぼくがやりたいのは全員がリーダーで、全員がフォロワーであるような組織です。だからそういうチームを作るために、一旦、役割のない窮屈さを経験してもらう。違和感から学んでいく仕掛けですね。

 ここもA-KIND塾に通ずるところがありますね。CAMPは半年に一回だそうですが、毎期、内容を変えていますか?

 根底にあるものは同じですが、極端な話、当日のプログラムが始まる数十分前に変更になることもあります。人間が関わる生モノなんで、常に変化してますね。オペレーションで回しても主体が人間なので、うまくいかないことが多いんです。イノベーション的に連続して行うことが必要だと思っています。だけど不思議なのは、毎期CAMP最終日に想像を超えたことが起こりますね。オペレーションだけで回したら予定調和のものしか生まれない。

塾長熊野へのメッセージ

 AIや機械学習に人間が立ち向かえる数少ない領域かもしれませんね。最後に熊野塾長にメッセージはありますか?

塾長熊野へのメッセージ

 ぜひCAMPを見に来てほしいですね。ぼくにとってCAMPは思想の具現化です。ぼくがクレープ屋で体験したことは、ぼくにとっての「経営」だった。ぼくはリーダーシップを執って、組織を作ってといういわゆる経営者タイプではないかもしれない。でもぼくにとっての経営はまさにCAMPなんですよね。ガイドラインはしっかりあるけど、スタッフはのびのびしていて、そこにいる人の良い所とダメな所を互いに伝えられる安心安全な環境を作って、発想した人が動かしていていって、というような形。このCAMPでの試みを経営に落とし込みたいんです。この取り組みを熊野さんに見てもらって、何を感じるのかをぜひ聞きたいです。

 今後の仕事の展開や大槻さんにとっての目標はなにかありますか?

 CAMPでの取り組みやヒューマンフォーラムの人材育成のエッセンスを学校教育に応用していくようなことを考えています。それから今みたいに子どもが、「パパの会社に入るよ」って言ってくれるような姿を見せ続けられるようにいたいですね。失敗だらけの人生だけど、イノベーションの人生ですよ。新聞配達でも大きな気づきがあったし、後悔がない人生だった。正解か間違いかは分からないけど、自分で選択したから後悔にならなかったのかもしれない。「こっちだ!」って自分で選んで、選んだからには一所懸命にやってみるだけですよね。

 今の時代、不確定要素で溢れているじゃないですか。日本でいうと2020年春頃からの新型コロナウイルス感染拡大や為替、歴史上もっとも情報化された社会もそうです。オペレーション的な教育や仕事は限界に迫っていると思います。そのあたりはいかがでしょうか?

 オペレーションとイノベーションが対立軸になりがちですけど、オペレーション的な仕事が得意な人もいれば、逆もありますよね。チーム全体はイノベーションを起こすことを目指したとしても、オペレーターが輝く場所がある。そこさえ二元論ではないんですよね。これまでの学校教育にも良い所はたくさんあると思います。
 CAMPのある回に高校生が一人混じってくれたことがありました。面白かった発見は、会社の中で倫理観高めましょうとか千回唱和するよりも、ちょっと優秀な高校生をチームに一人加える方がよっぽど、みんなの意識が高くなることでした。みんながちょっとずつ優しくなったりして。第三者視点を感じるという影響を見ることができました。だからライフワークバランスで職場に子ども連れてきてもよいですよ、じゃなくて、組織にとってよいかもしれない。自分の子どもの前で「遅刻しました。」とか職場で謝る姿とか見せたくないなってなったり。

 この子に恥じるような仕事はしない、と律する仕掛けになったわけですね。これからも人材育成に関わる知見を財団にも共有してくれると嬉しいです。ありがとうございました。