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NO.37 藤田 和芳 評議員選定委員「いしぶみ」

4a13255ee2d58459f2a20326aebca9df-335x500「いしぶみ」
藤田 和芳 評議員選定委員(株式会社大地を守る会代表取締役社長)

 

「ヒロシマ」を題材にした「いしぶみ」という映画がある。是枝裕和監督、綾瀬はるか朗読による新しい朗読劇。広島に原爆が投下された日、広島ニ中の一年生321人は本川の土手に集まっていた。突然、上空で爆発した原子爆弾。子供達の最期の一日を綴った手記が読み上げられる。

この映画をめぐって監督の是枝裕和さんと対談する機会があった。一瞬のうちに原子爆弾の業火に焼かれた子どもたち。目が飛び出し、顔が焼けただれ、腕の皮膚もベロリと剥がれた。でも、子どもたちは亡くなるまでの1時間、10時間、あるいは24時間を、友達と水浴びに行く約束をしたり、両親と会話をしたりしながらまるで普通の日常生活をしているように生きる。監督は、一人ひとりの生徒が絶命するまでの時間をどう生きたかを表現したかったという。

映画には「広島、長崎の人たちだけが戦争の被害者なのではない」と語る人が登場する。「東京や神戸、他にも空襲の犠牲になられた方がいる」、そして「この戦争では日本のせいで命を落とした人が、アジアにもアメリカにもいた」と語るのである。是枝監督は、日本人の「被害」の側面だけでなく「加害」の側面も訴えたかったのだろう。

978-4-591-08732-9かつての人気テレビ番組「帰ってきたウルトラマン」が話題になった。地球に取り残されて隠れ住む異星人が近隣住民によって無抵抗のまま殺されるという話。当時9歳の是枝氏は、このテレビ番組を観て、自らの加害性を意識したという。戦争には必ず「被害性」と「加害性」がある。日本人だけが被害を受けたのではない。いま、かつての戦争の加害性を日本人は忘却していこうとしているのではないか、と監督は言う。

童話「桃太郎」も話題になった。数年前、「ボクのお父さんは、桃太郎というやつに殺された」という新聞広告コピーが話題になったことがあった。考えてみると、私たちは「桃太郎の鬼退治」を当然のように受け入れてきた。桃太郎は、悪い鬼を退治するために鬼ヶ島に攻め上り、鬼を殺した。平和のためには鬼を殺すのは当然だ、と。でも、鬼ヶ島では鬼の子が「お父さんは桃太郎に殺された」と泣いている。私たちは、鬼にも家族がいるなんて想像もしていなかった。「加害」と「被害」は、どちらの側に立つかで瞬時に逆転するのである。

5月27日、現職の米国大統領としては初めてオバマ大統領が広島を訪問した。確かに、オバマ大統領の広島訪問で「ヒロシマ」は、核廃絶という点で世界の注目を集めた。しかし、シリア、イラク、アフガニスタンでは今日も罪のない市民が殺されている。原爆で失う十数万の命も、通常兵器の攻撃で失う一つの命も、愛しい者を奪われた遺族の悲しみと嘆きに、差はないのだ。

映画「いしぶみ」を観て、戦争の悲惨さ、平和の尊さを改めて思い知らされた。

 

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