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NO.44 高橋陽子 評議員「 あらゆる分野で必要になってきた福祉的視点(2)」

「あらゆる分野で必要になってきた福祉的視点(2)」

 高橋陽子 評議員(公益社団法人日本フィランソロピー協会 理事長)

 

『共生社会を創る愛の基金』

前厚生労働事務次官の村木厚子さんは、同省局長の時、いわゆる「郵便不正冤罪事件」に巻き込まれて逮捕されました。その後、無罪になりましたが、彼女は、真実を調べてほしい、と国を相手取って国家賠償請求を起こし、そこで得たお金を寄付して、2011年『共生社会を創る愛の基金』を立ち上げました。

事業の柱は、①障がいのある人が適正な取り調べを受け、公正な裁判を受けられる、②罪を犯してしまった障がい者が社会に復帰し二度と罪を犯さずに済む ③障がいゆえに犯罪を犯さざるを得ない状況に追い込まれる人がなくなる

そういう社会をみんなで創っていこうというもので、私も、その運営委員に加わらせていただいています。

知的障がい者の人口は、全人口の4~5%だと言われています。しかし、受刑者の中には、障がい者は20%~25%ぐらいいるという調査結果があります。取り調べが適正に行われにくい故の冤罪、また、出所後の受け入れ態勢、自立への環境が整備されていない現状の中で、刑務所に戻ることが、唯一生活の安定を得る方法になり、万引きや無銭飲食の軽犯罪を犯します。それがこうした数字に表れています。受刑者の高齢化も進み、認知症の人も増えているといいます。

2e73ec0c48d92ec2cd7d893aa5538c07_s実際、刑務官の負担は大きく、そうした中で、興味深い取り組みも始まっています。受刑者自身が介護士の資格を取って、受刑者同士で介護する、というものです。介護士の資格を取ることで、出所後の就職にも有利である、という期待もあるからです。ただ、一度、罪を犯した人、道を踏み外した人の再生に冷たい日本だと言われています。個々の障害や特性に合わせた矯正プログラムの充実が喫緊の課題でもあります。そうした現状を打破するため、同基金では、様々な活動への助成事業もしており、女子刑務所の改善や、障がい者など福祉的な支援が必要と思われる被疑者・被告人へのサポートをするトラブルシューター制度など、様々なプロジェクトが実績を上げています。今年で設立5年になりますが、5月には、刑事司法改革関連法案が可決され、容疑者の取り調べ録音・録画(可視化)や「司法取引」の導入が盛り込まれるなど、活動の成果が出始めています。

 

若草プロジェクト

先日の『共生社会を創る愛の基金』のシンポジウムでも、女子刑務所の話が出ていましたが、彼女たちは覚せい剤・風俗関連での罪が多い。服役中に復帰に向けた自立プログラムなどを受けるのですが、出所時に迎えに来ているのは、服役前に付き合っていた男性などが多く、あっという間に元の木阿弥ということが多いようです。そんな中、誘惑から彼女たちを守り、サポートしようと、無力感に負けずに地道な支援活動を進めている人たちが今年4月に立ち上げたのが若草プロジェクトです。

cc034b7839bdcf5dc1d73f7f7ba6d6f0_s貧困、虐待、ネグレクト、DV、いじめ、性的搾取、薬物依存、育児ノイローゼなど、様々な問題に翻弄され、苦しむ少女・若い女性たちが増えています。同プロジェクトは、自分の問題が本当は何であるかも分からず、心の闇に小さな何か(SOS)を抱えながら生きる彼女たちを支えようという取り組みです。代表理事は、永山則夫死刑囚の弁護を担った大谷恭子弁護士。瀬戸内寂聴さんや村木厚子さんが呼びかけ人になっています。事業の3本柱は、①ワンストップ相談窓口の設営 ②現状を社会に対し広める ③支援者の育成・研修 です。

立ち上げ時の寂聴さんの言葉。「日本はまだ大丈夫。SOSを胸にいっぱい抱えている女性たちの光になろうとしている人たちがこんなにいる。うれしくて涙が出てきた」

 

「誰も見捨てない」社会づくりが健全で活力ある未来への道筋

障がい者、刑余者、など、少々厄介と思われる人たちへの支援の取り組みを書いてきました。これらは、専門家でないと手を出せないと思いがちですが、それだけでは間に合わないし、一般の人たちの役割は意外と多いのです。

先日、東日本大震災の被災者支援、特に子供たちの心の支援をしている精神科医の話を聞きました。残虐な目に遭った子供たち、悲惨な状況に置かれる子供たちがいます。同じ境遇にある子どもでも、立ち直る子ども、そのまま堕ちていく子どもがいます。その違いは何か?自分のことを親身に考えてくれる人、見捨てずに手を差し伸べてくれる人、守ってくれる人、そういう大人が自分の周りにいるかどうかが大きな決め手となる場合が多いのだそうです。最近、レジリエンス(「精神的回復力」「抵抗力」「復元力」「耐久力」などとも訳される心理学用語)という言葉を時々耳にするようになりましたが、それを有効にするかどうかは周囲の大人の存在です。“自己責任”という乾いた言葉のもとに、見捨てられる人が多くなっている現代社会。誰も見捨てられない社会を次世代につなぐためにどうしたらいいか、を考える時、市井の人の出番が意外と多いのです。それぞれの専門性や知恵、経験、資金、そして何よりも子どもたちを大切に思う心など、様々な持てる資源を出し合っていくことが、支援される側のエネルギーになり、自立へとつながります。そして、実は、このことは、支援していると思っている側の力と喜びにもなり、それがお互いの信頼にもつながり、共に課題に立ち向かうパートナーにもなり得るのです。皆が暮らすコミュニティの健全化・活性化は、まちづくりの専門家のものではなく、そこに暮らす一人ひとりが創っていくのです。当協会でも、増大する「子どもの貧困問題」解決の糸口として、一般の人たちのボランティア参加などを進める活動を始めました。

昔からよく言われている、「情けは人のためならず」「持ちつ持たれつ」は、現代の共生・パートナーシップに通ずるように思います。

科学技術が発達し、AIが人間の頭脳を凌駕しそうな勢いです。理論やスキル、テクニックはAIに任せる部分は多そうです。だからこそ、人間の持つ根源的な「人を思う心」が人を救い、社会を立て直す原動力になるのでは、と思う昨今です。

 

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