シンライノコトバ

【2015年末に寄せて】

生命の持続性をその最大の破壊者である人間が守る為に、生態系共同体(エコシステム)に基づく制約条件下で、個人の自由を自らの意思で制限するような新しい社会秩序を形成していく産業革命が必要なのかもしれない、そう考えさせられることが多い1年だった。


年明け早々1月7日にパリの政治週刊紙「シャルリーエブド」がイスラム過激派に襲撃されたテロから始まり、11月13日に死者130名、負傷者300名以上と言われるパリ同時多発テロが起こり、12月12日に国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で「パリ協定」が採択され、温暖化対策について1997年「京都議定書」以来の枠組みが出来た2015年。
パリのニュースに始まり、パリのニュースで暮れようとしている。
世界最大の観光客数を誇るフランス(国際連合の専門機関である世界観光機関によると2014年は8370万人、2位のアメリカ7475万人に大きく差をつけている)。文化大国として世界中で魅了される人々の多い国だが、軍需産業も盛んな地域である。特需に沸いているというのは事実だろうか。


国際協調か分断か、政策の「陣営」が無くなり、経済だけを主軸に据えた様相で、世界はますます複雑になっていくように見える。
国の礎を築いたとされるリー・クアン・ユー元首相が今年亡くなったシンガポールの国際金融拠点化への変わらぬ爆走と犬猿の仲と言われた隣国マレーシアと分離後初の協調、ネパール大震災とその後のインドや中国とのエネルギー問題、中国株大暴落とIMFによる人民元の国際通貨化、ミャンマーの軍事政権敗北と外資の流入、教育・医療大国と言われるキューバの対アメリカ国交回復と中国・ロシアとの関係、シリアをはじめとする中東からの難民と空爆を続けるアメリカ・ヨーロッパ各国とロシアの立ち位置。世界的な原油安と利害によって分断されて行く中東。どこから武器や資金が流れているのか霧の中のIS。


そして、日本は、訪日海外客数が10月までで過去最高の1630万人を超え(日本政府観光局統計)、急速に国際観光地に上り詰めながら、憲法拡大解釈で次の戦争へ歩み出した年とも言われた。
再び原発が稼働している国にもなった。
福島原発の汚染処理は目処が立たぬまま、東京オリンピックに向けて平和な実体経済を伴わないバブルが局地的に起こっているようにも見え、象徴的にそのロゴやスタジアムが迷走した。
教育費が上げられようとしており、貧富の更なる格差拡大が懸念される中、TPPは農畜産物が安くなるとの話に焦点が絞られ、消費税の話は軽減税率に焦点が絞られて暮れようとしている2015年。


既存の枠組みの強化が始まっているのか、新しい秩序の胎動が始まっているのか。


個人の尊厳を守る自由を獲得するというエネルギーが、産業革命を生み、市民革命を生み、近代を形成していった。
その個人主義が利己主義となって暴走し、問題点を孕みながらも同時に存在し、互助的な関係性でセーフティネットになっていた共同体が崩壊していった戦中、戦後。
「自己責任」という掛け声の下、もはや孤独感が蔓延して多くの人を苦しめている。
それは、18500人もの死者・行方不明者を出した東日本大震災で関係性の欠如に依る二次被害が起こった事実が数多く判明した後も、広範な地域で汚染された水や土処理において人体への影響を恐れながら途方に暮れている福島原発事故を経験しても大きな変化がないように見える。


世界では、社会システムへの関与に幻滅した人々の憤りが、例えば、絶対的自由を求めるとして暴力すら正当化するISへなだれ込んだり、独自にテロを起こす流れにつながる動きが出ている。
一方、日本では、社会システムへの積極的関与を回避したいと、自らの空間や身近な関係性しか見ない動きが大きくなっている。
複雑で極大化した非人間的近代システムとなった現社会からのコントロールを回避したい、自らの尊厳を守りたいという思いがそのエネルギーの奔流となるのだろう。


これは、「人間の尊厳を守る」ことを目指した近代社会の限界を表しているのかもしれない。
我々人類は、近代を超える社会の新しい行動エネルギーとして、「生命の尊厳を守る」という視点が必要な時代を迎えたのではないか。
繰り返しになるが、生命の持続性をその最大の破壊者である人間が守る為に、生態系共同体(エコシステム)に基づいて、個人の自由を自らの意思で制限するようなコミュニティ、ひいては新しい社会秩序を形成していく産業革命が必要なのではないかと思う。


来年も新しい秩序への陣痛時期が続くだろう。来年こそは、信頼出来る仲間と共に、近代を超える社会の準備に入ることが出来る力をつけたい。


本年も大変お世話になりました。
来年も信頼資本財団をどうぞよろしくお願いいたします。



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2015年12月 熊野英介

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